第13話
片頭痛の急性期治療
三叉神経の「暴走」を止める薬たち
【監修】氷室クリニック院長・氷室公秀(医学博士・神経内科専門医)

片頭痛発作の中心にあるのは、
三叉神経血管系の異常な興奮です。
発作があるライン(閾値)を超えると、
三叉神経は一気に活性化し、痛みの回路が回り始めます。
この流れをシンプルに表すと、
三叉神経 → CGRP → TCC(三叉神経頚髄複合体)
という増幅回路になります1、4)。
急性期治療とは、
この回路が本格的に回り続ける前に、
どこかでブレーキをかける治療です1,3,5)。
現在、急性期治療の中心となっている薬は、
- トリプタン
- ラスミジタン
- CGRP受容体拮抗薬(ゲパント)
です1,3,8,10)。
これらはすべて、
三叉神経の「暴走回路」の
異なる場所に作用し、
発作を鎮めています。

三叉神経の「暴走」とは何か
片頭痛発作が始まると、
三叉神経終末は過敏な状態になり、
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)
という物質が大量に放出されます。
このCGRPは、
- 硬膜血管を拡張させる
- 血管周囲の炎症反応を強める
- 三叉神経そのものの興奮をさらに増幅する
といった作用を持っています。
その結果、
- ズキズキと脈打つ痛み
- 動くと悪化する痛み
- 光や音で強くなる痛み
といった、典型的な片頭痛症状が生まれます。
さらに、この刺激は
TCC(三叉神経頚髄複合体)へ伝わり、
痛みの信号は脳内でさらに増幅されます。
急性期治療薬は、
三叉神経終末
↓
CGRPシグナル
↓
TCCの興奮
という増幅回路のどこかを抑えることで、
発作を鎮めています。
●トリプタン
三叉神経と血管を同時に「引き締める」
トリプタンは、
5-HT1B/1D受容体作動薬です。
この薬は、主に三つの場所に作用します。
① 硬膜血管(5-HT1B)
血管を軽く収縮させることで、
心拍に同期した「脈打つ刺激」を弱めます。
② 三叉神経終末(5-HT1D)
CGRPの放出を抑え、
神経原性炎症のドライブを止めます。
③ TCCへの入力部
三叉神経から二次ニューロンへ伝わる
痛みの信号を弱めます。
つまりトリプタンは、
- 三叉神経終末
- 硬膜血管
- TCCへの入力
という三つのポイントに同時に作用する薬なのです。

なぜ「ズキズキする痛み」に効きやすいのか
拍動性の片頭痛では、
- CGRPによる血管拡張
- 心拍に同期した血管の振動
- それによる三叉神経への機械刺激
が強く関わっています。
ここにトリプタンを使用すると、
- 血管の振れ幅が小さくなる
- CGRP放出が抑えられる
- TCCへの入力が減る
ことで、ズキズキした痛みが
比較的速やかに落ち着いていきます4,6,8)。
●ラスミジタン
神経だけを静める薬
ラスミジタンは、
5-HT1F受容体作動薬です。
トリプタンと同じく
三叉神経系に作用しますが、
大きな違いがあります。
それは、
血管にはほとんど作用しない
という点です。
5-HT1F受容体は、
- 三叉神経終末
- TCC
には存在しますが、
血管平滑筋にはほとんど存在しません。
そのためラスミジタンは、
- 三叉神経終末からのCGRP放出を抑える
- TCCの神経活動を静める
一方で、血管収縮は起こしません。
この特徴から、
- 心血管リスクが高い方
- トリプタンを使いにくい方
では、重要な選択肢になります7,8,10)。

●CGRP受容体拮抗薬(ゲパント)
増幅回路そのものを断つ
ゲパントは、
CGRP受容体を直接ブロックする薬です。
主な作用部位は、
- 硬膜血管
- 三叉神経終末
- 一部の脳幹(TCC周辺)
と考えられています。
トリプタンとの大きな違いは、
「どこを止めるか」です。
トリプタンが
「CGRPの放出を抑える薬」だとすれば、
ゲパントは
「放出されたCGRPの作用そのものを遮断する薬」です。
イメージとしては、
- トリプタン:蛇口を閉める
- ゲパント:流れていくパイプを塞ぐ
という違いになります2,7,10)。

急性期治療を「回路」で見る
ここまで見てきたように、
急性期治療薬はすべて、
三叉神経 → CGRP → TCC
という回路のどこかに作用しています。
- トリプタン
→ 三叉神経終末と血管を同時に抑える - ラスミジタン
→ 血管を動かさず、神経活動を静める - ゲパント
→ CGRPによる増幅作用そのものを遮断する
つまり急性期治療とは、
「三叉神経の暴走回路を、どこで止めるか」
という戦略なのです1,4,9,5)。
トリプタンが
急性期治療の主力であり続けている一方、
新規薬には別の利点があります。
新しい薬が常に優れており、
互換可能というわけではなく、
患者背景に合わせて選択する必要があります7,8,10)。

次話では、
この回路をもう少し広い視点で見ながら、
- NSAIDs
- アセトアミノフェン
が、どこで作用しているのかを考えていきます1,3,5)。
同じ「頭痛に効く薬」でも、
- 神経の興奮を抑える薬
- 炎症を鎮める薬
では、役割や使いどころが大きく異なるのです。
参考文献
- 日本神経学会, 日本頭痛学会, 日本神経治療学会 監修. 「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 編. 頭痛の診療ガイドライン 2021. 東京: 医学書院; 2021.
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- Ashina M, et al. International Headache Society global practice recommendations for the acute pharmacological treatment of migraine. Cephalalgia. 2024
シリーズ『片頭痛を知る』 (全19話)
第13話 片頭痛の急性期治療 完
