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シリーズ「片頭痛を知る」

あなたの片頭痛にはどの予防薬が「筋が良い」のか

片頭痛を知る 第18話

あなたの片頭痛には
どの予防薬が「筋が良い」のか

拍動型・締め付け型・ふらつき型
で考える片頭痛予防

【監修】氷室クリニック院長・氷室公秀(医学博士・神経内科専門医)

シリーズ「片頭痛を知る」では、
片頭痛発作がどのような回路を通って起こるのか、
そして、さまざまな治療薬が
どの部分に作用しているのかを
段階ごとに見てきました。

今回は、その情報を
実際の「症状のタイプ」に
重ねて考えてみます。

同じ「片頭痛」と診断されていても、

  • ズキズキと脈打つように痛む人
  • 頭を締め付けられるように重く感じる人
  • めまいやふらつきが前面に出る人

では、
脳の中で特に不安定になっている回路が
少しずつ異なります。

そして、その“揺れやすい場所”によって、
相性の良い予防薬も変わってきます。

今回は、片頭痛を

  • 拍動型(ズキズキする典型的片頭痛)
  • 締め付け型(緊張型頭痛のように見える片頭痛)
  • ふらつき型(前庭性片頭痛)

の3つに分けながら、

「どの階層が暴れやすいのか」
「どの薬がそこを抑えるのに向いているのか」

という視点で整理してみます。

これまで見てきた
「片頭痛発作の流れ」を
簡単に整理してみます4

体質(遺伝的背景)

① 視床下部の不安定化

② 皮質興奮とCSD(皮質拡延性抑制)

③ 血管周囲炎症

④ 三叉神経(REZ・三叉神経節)

⑤ TCC(三叉神経頚髄複合体)

⑥ 前庭神経核

症状(拍動性頭痛・締め付け頭痛・めまい)

片頭痛では、
この回路のどこが
特に不安定になりやすいかによって、
症状の出方が変わります。

つまり予防薬とは、
単に「頭痛を止める薬」ではなく、

“その人の片頭痛で暴れている階層を
どこで落ち着かせるか”

を考えて選んでいく薬とも言えます145910

CSDとCGRPループをどこで断つか

拍動型では、
CSDとCGRPを中心とした
三叉神経回路が主役になります。

典型的な片頭痛では、

  • 脳皮質の不安定化(CSD)
  • 三叉神経終末からのCGRP放出
  • 血管拡張と神経原性炎症

が強く関与しています。

主に狙いたい階層は、
② CSD
③ 血管・神経炎症
④ 三叉神経
⑤ TCC

です4691012

<主に作用する階層>
② CSD
④ 三叉神経
⑤ TCC

トピラマートは、

  • Na⁺チャネル
  • Ca²⁺チャネル
  • グルタミン酸
  • GABA系

など複数の経路に作用し、
脳の興奮しやすさそのものを下げる薬です491213

その結果、

  • CSDの発生閾値を上げる
  • 三叉神経の興奮が抑えられる
  • CGRP放出が減る
  • TCCの中枢感作が起きにくくなる

といった作用が期待できます。

拍動型では、
発作が起きる「土台」を下げる
中核薬として位置づけやすい薬です
4,5,9,12,13)

バルプロ酸(デパケン®)

<主に作用する階層>
② CSD
④ 三叉神経
⑤ TCC

バルプロ酸は、
GABA増強とイオンチャネル抑制により、
神経ネットワーク全体の興奮性を下げる薬です491213

トピラマートが
“鋭い興奮”を抑えるイメージだとすると、
バルプロ酸は
“脳全体の揺らぎ”を穏やかに整える
タイプの薬と考えると分かりやすいでしょう4,5,9,10)

ロメリジン(ミグシス®)

<主に作用する階層>
② CSD
③ 血管

Caチャネル遮断により、

  • CSDを抑制する
  • 脳血管反応を安定化する

といった作用を持ちます。

典型的なズキズキ型の片頭痛と相性が良い薬です4,9,10,12)

β遮断薬(インデラル®など)

<主に作用する階層>
① 視床下部
② CSD
⑤ TCC

β遮断薬は、
視床下部や脳幹のモノアミン系を安定化し、
発作が起きやすい状態そのものを
下げる方向に働きます。

特に、

  • ストレス
  • 睡眠リズムの乱れ
  • 自律神経の揺れ

がきっかけになりやすいタイプでは、
“ベースラインの不安定さ”を整える薬
として有効なことがあります1,4,5,9,10,12)

CGRP関連薬(抗体薬・ゲパント)

<主に作用する階層>
③ 血管
④ 三叉神経
⑤ TCC

CGRP関連薬は、
CGRPシグナルそのものを抑える
分子標的薬です。

  • 発作頻度が高い
  • 従来薬で十分抑えきれない
  • 日常生活への影響が大きい

といった拍動型では、
非常に強力な選択肢になります
1,2,4,5,6,9,10)

また、

トピラマートなどで
CSDや三叉神経系の“起こりやすさ”を下げ、
それでも残るCGRPドライブを
CGRP関連薬で抑える。

という階層的な考え方も、
理にかなっています245691012

TCC感作と“入力の足し算”を減らす

締め付け型では、
TCCの中枢感作が中心になります。

このタイプでは、

  • TCCの感作
  • 首や肩、顔面からの慢性的入力
  • subclinical CSD(症状として見えにくいCSD)

などが重なっていると考えられます34591012

主に狙いたい階層は、
① 視床下部
② CSD
④ 三叉神経
⑤ TCC
です4,5,9,10,12)

トピラマート

締め付け型の中にも、

  • 動くと悪化する
  • 光や音に敏感
  • 家族歴がある

といった“片頭痛らしさ”
を持つタイプがあります。

こうしたケースでは、
CSDとTCCの両方を抑えられる
トピラマートが合いやすいことがあります1,3,4,5,9,10,12,13)

バルプロ酸

神経ネットワーク全体の
興奮を落ち着かせることで、

  • 慢性的な頭重感
  • 疲れやすさ
  • なんとなく頭が重い状態

を伴う患者さまに効果的なことがあります1,3,4,5,9,10,12)

トリプタノール®(アミトリプチリン)

<主に作用する階層>
① 視床下部
⑤ TCC

トリプタノールは、

  • 睡眠
  • 下行性疼痛抑制系
  • 気分や過覚醒

をまとめて整える薬です。

慢性化した締め付け型では、
TCCの“音量”を下げながら、
睡眠や不安定さも一緒に支える薬
として
重要な役割を持つことがあります1,4,5,9,10,11,12)

β遮断薬

視床下部や脳幹の過覚醒を抑え、
“発作が起きやすい日”
そのものを減らす方向に働きます。

ストレスで悪化しやすいタイプでは
有効なことがあります
1,3,4,5,9,10,11,12)

CGRP関連薬

締め付け型の中にも、

  • 拍動要素が混ざる
  • 鎮痛薬使用が増えている
  • 薬剤乱用頭痛(MOH)へ移行している

といったケースがあります。

こうした場合には、
CGRPドライブを下げることで
頭痛日数を減らせる可能性があります
1,2,3,4,5,6,9,10)

前庭核と片頭痛ネットワークを整える

前庭性片頭痛では、
TCCと前庭神経核を結ぶ回路が
重要になります。

このタイプでは、

  • TCCと前庭神経核の連結
  • 前庭ネットワークの過敏化
  • 視床下部やCSDの揺らぎ

などが関与しています。

主に狙いたい階層は、
① 視床下部
② CSD
⑤ TCC
⑥ 前庭神経核

です45791012

トピラマート

トピラマートは、

  • CSD
  • TCC
  • 前庭ネットワーク

を同時に抑える方向に働くため、
前庭性片頭痛では特に
“筋の良い”薬になりやすい

と考えられています4,5,7,9,10,12,13)

バルプロ酸

前庭核を含む
神経ネットワーク全体を安定化し、

  • めまい
  • 不安感
  • 乗り物酔いしやすさ

が強い症例で有効なことがあります4,5,7,9,10,11,12)

ロメリジン

CSDと血管反応を抑えるため、

  • 気圧変化で悪化する
  • 天候に左右されやすい

タイプで合うことがあります4,7,9,10,12)

β遮断薬

視床下部や自律神経の揺れを抑えることで、
ストレス関連の前庭発作に有効なことがあります1,4,5,7,9,10,12)

トリプタノール®(アミトリプチリン)

睡眠・疼痛抑制系・前庭ネットワークを
同時に整える薬です。

特に、「めまい」「頭重感」「不眠」「不安」
がセットになっているケースでは、
相性が良いことがあります
1,4,5,7,9,10,11,12)

CGRP関連薬

近年では、
前庭核にもCGRP受容体が存在する
可能性が注目されています。

そのため、難治性の前庭性片頭痛に対して、
CGRP関連薬が有効となる
可能性も期待されていま
2,4,5,6,7,9,10)

現時点ではまだ発展途上の分野ですが、
従来薬で十分改善しないケースでは、
今後さらに重要な選択肢になっていくかもしれません
2,4,5,6,7,9,10)

現時点のエビデンスは限定的であり、今後の研究結果により位置づけが変わりうる分野です。
(※現時点の文献と著者の整理に基づく説明です)

予防薬は、

  • β遮断薬
  • 抗てんかん薬
  • 抗うつ薬
  • Ca拮抗薬
  • CGRP関連薬

といった“薬の分類名”だけで選ぶものではありません。

大切なのは、

  • 視床下部の揺れが強いのか
  • CSDがどれくらい関与しているのか
  • 三叉神経とTCCがどこまで感作されているのか
  • 前庭ネットワークが巻き込まれているのか

を考えたうえで、
「その人の片頭痛で、
一番暴れている階層はどこなのか」

を見極めることです4,5,9,10,12)

そして、その階層を
もっとも効率よく抑えられる薬
を探していく。

それが、
“筋が良い薬”を考える
ということなのだと思います1,3,4,5,9,10,12

この視点を共有しておくと、
患者さま自身も、
「なぜこの薬を使うのか」
を理解しやすくなります。

片頭痛治療は、
単なる“痛み止め選び”ではなく、
脳のネットワークのどこを安定させるか
を考える治療でもあります
1,4,5,9,10,12)

シリーズ「片頭痛を知る」が、
その考え方を整理する
小さな手がかりになれば幸いです。

参考文献

  1. 日本神経学会, 日本頭痛学会, 日本神経治療学会 監修. 「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 編. 頭痛の診療ガイドライン 2021. 東京: 医学書院; 2021.
    → 拍動型/締め付け型/ふらつき型それぞれの診断・予防薬の基本的な位置づけ。
  2. 日本頭痛学会. CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版).
    → 18話で出てくる「CGRP関連薬」の適応や国内での使い方。
  3. 柴田護, 菊井祥二, 來村昌紀, 志水太郎. かかりつけ医のための片頭痛診断および治療のフローチャート. 診療と新薬. 2025;62:1-17.
    → 発作タイプ別に急性期・予防を組み立てる実務的なフローチャートとして、18話の「筋が良い薬」の考え方に直結します。
  4. Khan J, Asoom LIA, Sunni AA, Rafique N, Latif R, Saif SA, et al. Genetics, pathophysiology, diagnosis, treatment, management, and prevention of migraine. Biomed Pharmacother. 2021;139:111557.
    → 「視床下部→CSD→三叉神経→TCC→前庭核」の回路や、予防薬の病態的ターゲットの説明の土台になります。
  5. 間中信也, 山本雄一郎. 片頭痛治療の新時代―治療ゴールとアルゴリズムの提案―. 新薬と臨牀. 2024;73:3-17.
    → 「どの階層が暴れているかを見極めて薬を選ぶ」「どの予防薬が筋が良いか」という18話の哲学的な軸を支える日本語総説です。
  6. Tzankova V, Becker WJ, Chan TLH. Diagnosis and acute management of migraine. CMAJ. 2023;195(4):E153-E158.
    → 主に急性期総説ですが、「いつ予防を考えるか」「どの程度発作が多いと予防を検討するか」の背景として引用しやすいです。
  7. Smyth D, Britton Z, Murdin L. Vestibular migraine: an update. J Neurol. 2024.
    → ふらつき型(前庭性片頭痛)で「TCCと前庭核の連結」「前庭ネットワークの過敏化」を説明する際に、病態と治療オプションの根拠になります。
  8. Romano DG, Bisegna MT, Palmerini F, et al. Migraine Headache. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024.
    → 予防薬全体(β遮断薬、Ca拮抗薬、抗てんかん薬、抗うつ薬など)の簡潔なまとめとして使えます。
  9. Varkey E, et al. Migraine Prophylaxis. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023.
    → トピラマート、バルプロ酸、ロメリジン、β遮断薬、トリプタノールなど、18話で挙げている各予防薬クラスの一覧とエビデンスレベルを確認できます。
  10. Burch RC, Kaniecki RG, Loder EW. Pharmacologic prevention of migraine. BMJ. 2023;380:e072137.
    → どの薬が first-line になり得るか、従来薬と CGRP 関連薬をどう位置づけるか、といった「全体設計」を支える総説です。
  11. Modi S, Lowder DM. Medications for migraine prophylaxis. Am Fam Physician. 2006;73(1):72-78.
    → 古典的ではありますが、ナプロキセン/β遮断薬/三環系/バルプロ酸などの現場での使われ方を知りたい一般医・レジデント向けに役立ちます。
  12. Sacco S, Bendtsen L, Ashina M, et al. Current prophylactic medications for migraine and their potential future use. Curr Neuropharmacol. 2023;21(4):657-676.

シリーズ『片頭痛を知る』 (全19話)
第18話 あなたの片頭痛にはどの予防薬が「筋が良い」のか  完

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