シリーズ『片頭痛を知る』 第14話
NSAIDsはどこで効くのか
痛みを増幅する反応を抑える薬
(2026年10月15日改訂)
【監修】氷室クリニック院長・氷室公秀(医学博士・神経内科専門医)
片頭痛の急性期治療というと、
トリプタンを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)も、
発作時の頭痛を抑える重要な選択肢です。[1,3,6]
ロキソプロフェンやイブプロフェンなどは、
身近な痛み止めとして知られています。[1]
ただ、片頭痛の仕組みの中で、
どのような働きをしているのでしょうか。
今回は、痛みが生まれ、強まっていく過程に重ねて考えてみます。

痛みを強める物質を減らす
片頭痛では、
顔や頭の感覚を伝える三叉神経系と、
CGRPという物質の働きが重要です。[2,4,5]
一方、痛みの伝達には、CGRPだけでなく、
プロスタグランジンなどの物質も関わっています。[5,8]
プロスタグランジンには、
痛みを伝える神経を刺激に反応しやすくする働きがあります。[8]
NSAIDsは、
この物質を作るCOX(シクロオキシゲナーゼ)という酵素を抑え、
プロスタグランジンの産生を減らす薬です。[8]
そのため、「痛みの信号を直接消す薬」というより、
「痛みを強める反応を弱める薬」
と考えると理解しやすいでしょう。[8]
ただし、NSAIDsが効くことは、
片頭痛が感染症などと同じ意味での
「炎症の病気」であることを示すわけではありません。[5]

作用する場所は、
一か所ではありません
三叉神経から入った痛みの情報は、
脳幹の三叉神経脊髄路核や上位頚髄で処理され、
さらに脳のほかの領域へ伝わります。[5,6]
この脳幹と頚髄の領域をまとめて、
TCC(三叉神経頚髄複合体)と呼びます。[5]
NSAIDsについては、
頭の周囲で痛みを受け取る神経への作用だけでなく、
中枢で痛みを処理する仕組みへの作用も、
主に動物実験などで研究されています。[8]
一方、患者さまの片頭痛が改善するとき、
どの場所への作用がどれほど寄与しているかは、
十分に分かっていません。[5,8]
したがって、
「NSAIDsはTCCの周囲にある炎症を鎮める薬」
と一か所に限定するより、
プロスタグランジンを介した痛みの増幅に、
末梢と中枢の両面から作用しうる薬、
と整理する方が正確です。[8]
神経の興奮が高まり、
痛みを感じやすくなる「感作」と、
組織に炎症があることも、
同じではありません。[5]
片頭痛の仕組みを考えるときには、
この二つを分けておくことが大切です。

トリプタンとは何が違うの?
トリプタンは、
特定のセロトニン受容体を介して、
三叉神経からの神経ペプチドの放出や、
痛みの伝達などを抑える薬です。[5,6]
NSAIDsは、主にCOXを抑え、
プロスタグランジンの産生を減らします。[8]
同じ発作時の薬でも、作用の入り口が違います。
ただし、片頭痛の回路は、
一本の川のように上流から下流へ
流れるだけの仕組みではありません。[5]
「トリプタンは上流、NSAIDsは下流」
という説明は大まかな理解には役立っても、
実際の作用部位を明確に二分できるわけではないのです。[5,8]
薬を選ぶときには、
痛みの強さ、
生活への支障、
これまでの効き方、
副作用や持病を合わせて判断します。[1,3,6]
NSAIDsで十分に改善する発作もあれば、
トリプタンなど別の治療が必要な発作もあります。[1,3,6]
「どちらが強いか」だけでは、
使い分けは決まらないのです。

めまいを伴うときには
前庭性片頭痛では、
痛みを伝える三叉神経系と、
平衡感覚に関わる前庭系の相互作用が注目されています。[7]
ただし、頭痛に効く薬が、
めまいにも同じように効くとは限りません。[9]
NSAIDsは、
前庭性片頭痛に伴う頭痛にも用いられます。[9]
一方、めまいそのものへの効果については、
頭痛ほど十分な根拠がそろっていません。[9]
「前庭神経核の周囲の炎症を抑えるために、めまいが改善する」
という説明も、ヒトの臨床で確かめられた作用機序ではありません。[7,9]
実際の診療では、
めまい主体の発作で、トリプタンよりNSAIDsの服用後に
症状が落ち着く方を経験することがあります。
ただし、これは著者の臨床経験であり、
NSAIDsが一般にトリプタンより優れることや、
その理由が解明されたことを意味するものではありません。
このような場合は、
頭痛がどう変わったか、
めまいがどう変わったかを分けて記録し、
その方の反応を確かめながら治療を考えます。
頭痛の改善だけで、
めまいの改善まで判断しないことが大切です。[9]

服用のタイミングと、使う日数
急性期治療では、
頭痛が始まったことを確認したら、
医師と相談した方法で、
痛みが強くなる前に対処することが基本になります。[1,3,6]
発作中には胃の動きが低下して、
飲み薬の吸収に影響することもあります。[8]
ただし、「早く飲む」とは、
頭痛が起こるか分からない段階で、
毎回予防的に飲むという意味ではありません。
服用するタイミングや追加の服用は、
処方時の指示に従ってください。
また、NSAIDsは身近な薬ですが、
胃腸障害や腎機能への影響などに注意が必要です。[8]
市販薬と処方薬で成分が重なることもあるため、
別の商品だからと自己判断で重ねないようにしましょう。
頭痛のために薬を使う日が増えてきたときは、
薬剤の使用過多による頭痛を含め、
治療の組み立てを見直す必要があります。[1,3,6]
「何錠飲んだか」だけでなく、
「月に何日使ったか」を記録しておくと、
相談の手がかりになります。[3,6]

痛み止めを、
仕組みと実際の反応から考える
NSAIDsは、
単に痛みを感じなくするだけでなく、
痛みを強める物質の産生を抑える薬です。[8]
しかし、その働きを、
脳の一か所の炎症だけで説明することはできません。[5,8]
薬の仕組みを知ることは、
治療を理解する助けになります。
一方、実際の選択では、
その方の発作に効くこと、
安全に使えること、
使う日数が増えすぎないことを、
一緒に確かめていく必要があります。[1,3,6]
次回は、こうした考え方をもとに、
片頭痛の薬をどのように選ぶのかを整理していきます。
参考文献
- 1. 日本神経学会, 日本頭痛学会, 日本神経治療学会 監修. 「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 編. 頭痛の診療ガイドライン2021. 東京: 医学書院; 2021.
- https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/110490
- 2. 日本頭痛学会. CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版)[Internet]. 2026年10月11日参照.
- https://www.jhsnet.net/guideline_CGRP.html
- 3. 柴田護, 菊井祥二, 來村昌紀, 志水太郎. かかりつけ医のための片頭痛診断および治療のフローチャート. 診療と新薬. 2025;62(1):1–17.
- https://www.shinryo-to-shinyaku.com/db/pdf/sin_0062_01_0001.pdf
- 4. Khan J, Al Asoom LI, Al Sunni A, Rafique N, Latif R, Al Saif S, et al. Genetics, pathophysiology, diagnosis, treatment, management, and prevention of migraine. Biomed Pharmacother. 2021;139:111557. doi:10.1016/j.biopha.2021.111557.
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34243621/
- 5. Goadsby PJ, Holland PR, Martins-Oliveira M, Hoffmann J, Schankin C, Akerman S. Pathophysiology of Migraine: A Disorder of Sensory Processing. Physiol Rev. 2017;97(2):553–622. doi:10.1152/physrev.00034.2015.
- https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5539409/
- 6. Tzankova V, Becker WJ, Chan TLH. Diagnosis and acute management of migraine. CMAJ. 2023;195(4):E153–E158. doi:10.1503/cmaj.211969.
- https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9888545/
- 7. Villar-Martinez MD, Goadsby PJ. Vestibular migraine: an update. Curr Opin Neurol. 2024;37(3):252–263. doi:10.1097/WCO.0000000000001257.
- https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11064914/
- 8. Pardutz A, Schoenen J. NSAIDs in the Acute Treatment of Migraine: A Review of Clinical and Experimental Data. Pharmaceuticals (Basel). 2010;3(6):1966–1987. doi:10.3390/ph3061966.
- https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4033962/
- 9. Smyth D, Britton Z, Murdin L, Arshad Q, Kaski D. Vestibular migraine treatment: a comprehensive practical review. Brain. 2022;145(11):3741–3754. doi:10.1093/brain/awac264.
- https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9679161/
シリーズ『片頭痛を知る』 (全19話)
第14話 NSAIDsはどこで効いているのか 完
