シリーズ『片頭痛を知る』 第14話
NSAIDsはどこで効くのか
三叉神経核周囲の炎症を鎮める薬
【監修】氷室クリニック院長・氷室公秀(医学博士・神経内科専門医)
片頭痛の急性期治療というと、
多くの方は「トリプタン」を
思い浮かべるかもしれません。
しかし実際の診療では、
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
も非常に重要な役割を担っています1,3,6)。
ロキソニン®やイブプロフェンなどは
市販薬としても広く知られていますが、
「なぜ片頭痛に効くのか?」
については、意外と詳しく知られていません。
前回のコラムでは、
片頭痛発作の中心にある回路として、
三叉神経 → CGRP → TCC(Trigemino-Cervical Complex)
という流れをご紹介しました1,4)。
トリプタンやCGRP関連薬は、
この回路の比較的“上流”に作用し、
三叉神経の興奮やCGRPの働きを抑えます。
一方、NSAIDsは少し違う場所で作用しています。

三叉神経の周囲で起きている「炎症」
片頭痛発作では、
三叉神経が活性化すると同時に、
その周囲で神経原性炎症と呼ばれる反応が起こります。
三叉神経終末から放出される
CGRPなどの物質は、
- 血管周囲の炎症を引き起こす
- 痛覚神経を過敏にする
- 痛みの信号を増幅させる
といった変化をもたらします4,6)。
この炎症反応の中で重要な役割を持つのが、
プロスタグランジンという物質です。
プロスタグランジンは、
- 痛みを感じやすくする
- 神経細胞の興奮を高める
- 痛みの回路をさらに活性化させる
という作用を持っています4,8)。
NSAIDsは、
このプロスタグランジンを作る
酵素(COX)を抑えることで、
炎症反応や痛みの増幅を弱めています1,6,8)。
つまりNSAIDsは、
「痛みそのもの」だけでなく、
“痛みを強めていく環境”を抑える薬
と考えると理解しやすいでしょう。
NSAIDsが作用する場所
TCC(三叉神経頚髄複合体)周囲の炎症
片頭痛の痛み信号は、
三叉神経から脳幹へ伝わり、
三叉神経脊髄路核へ入力されます。
この領域は上位頚髄と連続しており、まとめて
TCC(Trigemino-Cervical Complex)
と呼ばれています4)。

ここでは、
三叉神経から入ってきた痛みの信号が
二次ニューロンへ伝達され、
さらに大脳へと送られていきます。
片頭痛発作では、
このTCC周囲でも炎症性変化が起こり、
神経細胞の興奮が高まります4,8)。
NSAIDsは、この周囲の炎症を抑えることで、
- 三叉神経からの痛み入力
- 二次ニューロンの過剰な興奮
を弱める方向に働きます1,6,8)。
つまりNSAIDsは、
痛み回路の“下流”で起きている炎症を鎮める薬
と整理するとわかりやすくなります。
前庭性片頭痛にも効く理由
三叉神経からの信号は、
TCCだけでなく前庭神経核にも
影響を与えます。

この経路を通じて、
三叉神経の異常興奮が前庭系へ波及すると、
- めまい
- 浮動感
- 体を動かしたときの不快感
といった症状が現れます。
これが前庭性片頭痛と呼ばれる状態です4,7)。
前庭神経核の周囲でも、
三叉神経入力による炎症反応や
神経興奮の増幅が起こると考えられており、
NSAIDsはこの領域の炎症も抑えることで、
- 頭痛
- めまい
- 浮遊感
の両方に効果を示すことがあります4,7,8)。
実際の診療でも、
めまい主体の発作では、
トリプタンよりNSAIDsの方が
症状が落ち着くケースを経験することがあります6,7)。
(※著者の臨床経験に基づく整理を含みます)
トリプタンとの違い
ここで、トリプタンとの違いを整理してみましょう。

トリプタンは主に、
- 三叉神経終末
- CGRP放出
- 血管反応
といった“上流”に作用します4,6)。
一方でNSAIDsは、
- プロスタグランジン
- 神経周囲炎症
- 脳幹の神経興奮
といった“下流”に作用します4,6,8)。
この違いのため、
典型的な拍動性頭痛では
トリプタンがよく効く一方で、
- めまい主体
- 頭重感主体
- 前庭症状が強い
といったタイプでは、
NSAIDsが有効な場合も少なくありません1,3,6,7,8)。
「早く飲むと効く」理由
NSAIDsは、
発作の早い段階で服用するほど
効果が高くなります。

これは片頭痛が時間とともに、
- 三叉神経の興奮
- TCCの過敏化
- 中枢感作
へと進行していくためです4,6,8)。
炎症や神経過敏が
広範囲に広がってしまうと、
薬だけでは十分に抑えきれなくなります。
そのため、
「痛みが完成する前」に介入する
ことがとても重要になります1,6,8)。
急性期治療を“回路”で考える
ここまで見てきたように、
片頭痛の急性期治療薬は、
それぞれ異なる場所に作用しています1,4,6,8)。
- トリプタン
→ 三叉神経やCGRPを抑える(回路の上流) - NSAIDs
→ 神経周囲の炎症を抑える(回路の下流)
どちらが「強い薬」というより、
片頭痛回路のどの段階に介入するか
という視点で理解すると、
治療の考え方が整理しやすくなります1,4,5)。
片頭痛治療は、
「痛み止めを飲む」という単純な話ではなく、
脳内で起きている反応に対して、
どこを抑えるかを考える治療
でもあるのです1,4,5)。
参考文献
- 日本神経学会, 日本頭痛学会, 日本神経治療学会 監修. 「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 編. 頭痛の診療ガイドライン 2021. 東京: 医学書院; 2021.
- 日本頭痛学会. CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版).
- 柴田護, 菊井祥二, 來村昌紀, 志水太郎. かかりつけ医のための片頭痛診断および治療のフローチャート. 診療と新薬. 2025;62:1-17.
- Khan J, Asoom LIA, Sunni AA, Rafique N, Latif R, Saif SA, et al. Genetics, pathophysiology, diagnosis, treatment, management, and prevention of migraine. Biomed Pharmacother. 2021;139:111557.
- 間中信也, 山本雄一郎. 片頭痛治療の新時代―治療ゴールとアルゴリズムの提案―. 新薬と臨牀. 2024;73:3-17.
- Tzankova V, Becker WJ, Chan TLH. Diagnosis and acute management of migraine. CMAJ. 2023;195(4):E153-E158.
- Smyth D, Britton Z, Murdin L. Vestibular migraine: an update. J Neurol. 2024.
- Romano DG, Bisegna MT, Palmerini F, et al. Migraine Headache. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024.
シリーズ『片頭痛を知る』 (全19話)
第14話 NSAIDsはどこで効いているのか 完
