片頭痛を知る 第9話
片頭痛の「3つの顔」
ズキズキ・締め付け・めまい
それぞれの違いと原因
【監修】氷室クリニック院長・氷室公秀(医学博士・神経内科専門医)

「片頭痛」と聞くと、
多くの方はズキズキと拍動する
激しい頭痛を思い浮かべるでしょう。
しかし実際の診療では、
それだけでは説明できない
多様な症状に出会います。
- 拍動する激しい痛みが前面に出るタイプ
- 頭を締め付けられるような重さが続くタイプ
- めまいが主で、頭痛が目立たないタイプ
これらは単なる“個人差”
ではありません。
同じ片頭痛という病態が、
脳のどのネットワークを、
どの程度巻き込むかによって、
まったく異なる表情を見せているのです。
今回は、学会分類とは少し視点を変えて、
実臨床で遭遇する片頭痛を
「3つの顔」として整理し、
その背景にある神経学的メカニズムを
ひとつの流れとして解説します。
片頭痛はどこから始まるのか
〜視床下部と脳のネットワーク異常〜

●発作の引き金になる要因
(ストレス・睡眠・ホルモン)
片頭痛発作は、
突然頭が痛くなる現象ではありません。
多くの研究から、発作のかなり早い段階で
視床下部を含む脳内ネットワークの変調
が始まっていることが示唆されています。
きっかけとなるのは、
- ストレス
- 睡眠不足
- 生活リズムの乱れ
- ホルモン変動
といった日常的な要因です。
●脳が「興奮しやすくなる」とは
こういった日常の要因は
- 視床下部
- 脳幹モノアミン系
- 自律神経系
に影響し、脳全体を
「興奮しやすい状態」
へと傾けます。
●CSD(皮質拡延性抑制)が起こる仕組み
特に影響を受けやすいのが後頭葉の皮質です。
ここは
- 興奮性回路が密集している
- 酸素消費が非常に多い
- 血流調整の余裕が小さい
という特徴を持ち、
不安定化しやすい領域です。
その結果、一部の発作では
皮質拡延性抑制(CSD)
が引き起こされます。
なぜ片頭痛で
「痛み」が起こるのか
〜三叉神経を巻き込む2つの経路〜
ここで重要なことは、
CSDそのものが“痛み”ではない
という点です。
問題は、この現象が
三叉神経系を活性化すること
にあります。
現在の理解では、
CSDは主に2つの経路で
三叉神経を刺激します。

① 直接経路:化学物質による刺激
CSDが通過した後、脳脊髄液(CSF)では
- カリウムイオンの上昇
- グルタミン酸・ATP・一酸化窒素などの放出
が生じます。
三叉神経の一部は
解剖学的に髄鞘による保護が弱く、
これらの変化の影響を直接受けます。
その結果、
三叉神経が比較的早い段階で活性化し、
CGRPの放出と血管反応が始まります。
② 間接経路:血管拡張と炎症反応
CSDの後には、
反跳的に血流が増加し、
硬膜の血管が拡張します。
この血管変化は
- 機械的刺激
- CGRPなどの放出
を通じて、
三叉神経終末を持続的に刺激します。
この「遅れてくる刺激」が、
長く続く痛みの基盤になります。
くわしくは、第6話「CSDから三叉神経・CGRPへ」をご覧ください。
三叉神経の興奮が生む
「3つの顔」

三叉神経が活性化するといっても、
その影響は一様ではありません。
どのレベルが主に関与するかによって、
症状の現れ方が変わります。
① 拍動型(ズキズキする頭痛)
〜血管反応が前面に出るタイプ〜

- CGRPによる血管拡張
- 心拍に同期した刺激
によって、
「ズキズキ」「ドクドク」
という拍動性の痛みが生じます。
悪心や光・音過敏を伴う、
いわゆる典型的な片頭痛です。
② 締め付け型(圧迫感・重い頭痛)
〜中枢感作が主体のタイプ〜

三叉神経からの信号は
- 三叉神経脊髄路核(Sp5C)
- 上位頸髄(C1–2)
で統合され、
TCC(三叉神経頸髄複合体)を形成します。
ここで感作が進むと
- 拍動性が目立たない
- 持続する重い締め付け感
が主になります。
一見すると
緊張型頭痛に似ていますが、
- 光・音過敏を伴う
- 頭を動かすと悪化する
という点が決定的に異なります。
③ 前庭型(めまいが主症状)
〜脳幹ネットワークが主役になるタイプ〜

Sp5C(三叉神経脊髄路核)は
前庭神経核と密接につながっています。
このネットワークの過敏化が前面に出ると
- 回転性・浮動性めまい
- ふらつき
が主症状となり、
頭痛は目立たない、
あるいは出ないこともあります。
これは内耳の病気ではなく、
三叉神経―前庭系ネットワークの中枢性異常
と考えられます。
症状が人によって違う理由
ここで重要なのは、
これらが別々の病気ではないという点です。
- 三叉神経のどの部位が
- どのタイミングで
- どの程度感作されるか
その違いによって、
「症状の顔」が変わっているに過ぎません。
片頭痛とは、
一つの神経疾患が、
多様な表情で現れている状態
なのです。
緊張型頭痛との違い
見分けるポイントは?

臨床的に非常に重要なのが、
頭や体を動かしたときに
痛みが悪化するかどうか
です。
これは痛みの性質以上に、
片頭痛を示唆する重要なポイントです。
片頭痛では
- 三叉神経血管系が過敏化しているため
- 血管や神経終末が機械刺激に敏感になっている
結果として、
- 拍動性であっても
- 締め付け感主体であっても
動作によって痛みが増悪します。
一方、緊張型頭痛では
この反応は通常みられません。
この違いは、
片頭痛が「痛みの質」ではなく
神経の興奮状態そのものの問題
であることを示しています。
この「動作による増悪」は、
痛みの質ではなく、三叉神経系がすでに
疼痛発火閾値を超えていることを反映する
反応性の指標です。
そして片頭痛では、
この閾値そのものが
日によって揺れ動いています。
だからこそ同じ人でも、
ある日は軽い違和感だけで終わり、
ある日は強い頭痛やめまいへ進展するのです。

さらに重要なのは、
発作は「痛みが消えた瞬間」に
終わるわけではないという点です。
頭痛が治まったあとにも、
脳のネットワークは
なお不安定な状態を引きずり、
だるさや思考力低下、
“頭が戻り切らない感覚”
が残ることがあります。
次話では、
こうした“片頭痛のあと”に起こる状態である
「ポストドローム期」
いわゆる
「片頭痛の二日酔い」
について解説します。
シリーズ『片頭痛を知る』 (全19話)
第9話 片頭痛の「3つの顔」 完
