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シリーズ「片頭痛を知る」

発作が起きる日と起きない日がある理由

シリーズ『片頭痛を知る』 第8話

発作が起きる日と
起きない日がある理由

片頭痛はトリガーではなく「閾値」で決まる

【監修】氷室クリニック院長・氷室公秀(医学博士・神経内科専門医)

片頭痛の患者さまは、
よくこうお話をしてくださいます。

「同じように過ごしているはずなのに、
ある日は何も起きず、 別の日は突然発作になる」

“予測のできなさ”は、
片頭痛の大きな特徴です。

そしてこの疑問は、片頭痛を
「特定のトリガー(原因)で必ず起こる病気」
と考えている限り、
うまく説明することができません。

現在の神経学的な理解では、
片頭痛発作は

「ある一線(=閾値)を超えたときにだけ起こる現象」

として捉えるのが最も合理的とされています。

片頭痛には、
単純なオン・オフのスイッチはありません。

脳の中では常に、

  • 視床下部の活動状態
  • 大脳皮質の興奮性
  • 三叉神経血管系の感受性

といった要素が揺れ動いています。

その中で、

全体としての“興奮レベル”が、
その人の閾値を超えたときにだけ、
発作として現れる

と考えられています4,5,6)

ここで重要なのは、

「トリガー」そのものよりも、
それを受け取る“脳の状態”

のほうが本質的である

という点です。

発作のきっかけになる要因はさまざまで、
その一つひとつは強くありません。

  • 睡眠不足
  • ストレス
  • 月経周期
  • 空腹
  • 気圧の変化
  • 光や音などの刺激

これらはそれぞれ、
脳の興奮性を少しずつ押し上げます。

だからこそ、

  • 昨日は睡眠不足でも発作は起きなかった
  • 今日は同じ睡眠不足で発作が起きた

という違いが生まれます。

それは、

複数の要因が“たまたま重なり”、
合計値が閾値を超えたかどうか

の違いにすぎません。

つまり片頭痛は、

「単発の原因」ではなく
「積み重なり」で起きる病気

なのです5,6,7)

では、発作が起きなかった日は何が違うのでしょうか。

それは、

  • 閾値が高かった
  • 興奮の入力が少なかった

このどちらか、あるいは両方です。

たとえば、

  • 十分な睡眠
  • 規則的な食事
  • ストレスの軽減
  • 適度な運動

これらは単なる生活習慣ではなく、

神経系の興奮性を安定させ、
閾値を引き上げる生理学的な作用

を持っています5,6,7,8)

近年使われているCGRP抗体製剤は、
「発作を止める薬」
と思われがちですが、
実際には少し違います。

この薬は、

  • 三叉神経終末でのCGRPの作用を抑え
  • 血管周囲・TCCでの神経の過敏状態(感作)を下げ
  • 三叉神経血管系のベースラインの興奮度を下げる

ことで、

発作が起きるための
“閾値そのもの”を引き上げる

治療です2,4,9)

その結果、
同じ条件でも発作が起きにくくなり、
「発作が起きない日」
が増えていきます。

睡眠・食事・運動・ストレス管理は、
薬に比べて軽く見られがちです。

しかし閾値という視点で見ると、

  • 行動介入:少しずつ閾値を引き上げる
  • 薬物療法:より強く閾値を引き上げる

という関係にあります5,6,7,8)

重要なのは、

「複数の方法で閾値を底上げしていくこと」

です。

これが、現実的で再現性の高い予防戦略になります。

予防治療は、

  • 発作がゼロになる
  • 痛みが完全に消える

という形で現れるとは限りません。

多くの場合は、

  • 発作の回数が減る
  • 症状が軽くなる
  • 回復が早くなる

という変化として現れます。

これは、

閾値が少し上がったことで
「超えない日」が増えた

と考えると、自然に理解できます5,6,9)

片頭痛は「偶然の発作」ではありません。

片頭痛は、

  • 原因がバラバラな病気ではなく
  • コントロールできないものでもなく

「閾値を軸にした、変動する神経現象」

です。

だからこそ、

  • なぜ今日は起きたのか
  • なぜ昨日は起きなかったのか

その違いには、必ず理由があります。

そして、その理解こそが、
“予防できる病気”として
片頭痛を捉える第一歩
になります。

また、片頭痛は、

その時々の脳の状態によって、
「起きるかどうか」も
「どんな症状になるか」も変わる
“変動する神経現象”です。

  • ある日はズキズキとした強い頭痛として現れ
  • 別の日は重だるい圧迫感として感じられ
  • あるいは、めまいとして現れることさえある

それらはバラバラの病気ではなく、

同じ片頭痛が、
異なる「顔」を見せている状態
にほかなりません。

次回は、この“片頭痛の多様性”に焦点を当て、

「なぜ同じ片頭痛が、まったく違う症状に見えるのか」

を、神経ネットワークの視点から整理していきます。

ズキズキする痛みだけではない、
片頭痛のもう一つの姿が見えてきます。

参考文献

  1. 日本神経学会,日本頭痛学会,日本神経治療学会.
    「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 編.頭痛の診療ガイドライン 2021.東京:医学書院;2021.
  2. 日本頭痛学会.
    CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版).日本頭痛学会;発行年不詳.
  3. 柴田護,菊井祥二,來村昌紀,志水太郎.
    かかりつけ医のための片頭痛診断および治療のフローチャート.診療と新薬.2025;62(1):1–17.
  4. Khan J, Asoom LIA, Sunni AA, Rafique N, Latif R, Saif SA, et al.
    Genetics, pathophysiology, diagnosis, treatment, management, and prevention of migraine. Biomed Pharmacother. 2021;139:111557.
  5. Minen MT, Begasse De Dhaem O, Kroon Van Diest A, Powers S, Schwedt TJ, Lipton R, et al.
    Lifestyle Modifications for Migraine Management. Curr Neurol Neurosci Rep. 2016;16(12):101.
  6. Buse DC, Mandel S, Fanning KM, Serrano D, Reed ML, Manack Adams A, et al.
    Lifestyle factors and migraine: A narrative review. Lancet Neurol. 2020;19(5):447–456.
  7. Hindiyeh N, Barmherzig R, Aurora SK.
    SEEDS for success: lifestyle management in migraine. Cleve Clin J Med. 2019;86(11):741–749.
  8. American Migraine Foundation.
    Lifestyle changes for migraine management. American Migraine Foundation; 2025.
  9. American Headache Society.
    The American Headache Society position statement on integrating new migraine treatments, including CGRP-targeted therapies, into clinical practice. Headache. 2024;64(3):345–359.

シリーズ『片頭痛を知る』 (全19話)
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