シリーズ「片頭痛を知る」 第12話
片頭痛治療は
「どこを止めるか」で考える
神経ネットワークと治療戦略
【監修】氷室クリニック院長・氷室公秀(医学博士・神経内科専門医)
シリーズ「片頭痛を知る」では、
片頭痛を単なる「頭痛」ではなく、
脳の神経ネットワークの変調として見てきました。
発作は突然始まるように見えても、
実際には脳の中で
いくつもの段階を経ながら進行しています。
たとえば、
- 視床下部を含む“発作生成ネットワーク”の変調
- 大脳皮質の興奮性上昇
- ときに皮質拡延性抑制(CSD)
- 三叉神経血管系の活性化
- 三叉神経頚髄複合体(TCC)の感作
といった変化が連続して起こり、
その結果として、
- ズキズキする拍動性の痛み
- 締め付けられるような痛み
- めまいを主体とする発作
など、さまざまな症状として現れます。
ここまで理解すると、
次に自然と浮かぶ疑問があります。
「治療薬は、この流れのどこに作用しているのか?」
今回は、
片頭痛治療を「神経回路のどこを止めるか」
という視点から整理していきます。

「頭痛薬」という曖昧な言葉
日常では、
「頭痛薬」という言葉が
ひとまとめに使われます。
しかし医学的に見ると、
この表現はかなり幅広く、
実際にはまったく異なる作用を持つ薬
が含まれています。
たとえば片頭痛治療には、
- 発作中の三叉神経の活動を抑える薬
- 神経原性炎症を鎮める薬
- 脳全体の興奮性を下げ、発作そのものを起きにくくする薬
などがあります1,5)。
同じ「頭痛に効く薬」でも、
- どこに作用するのか
- 何を目的としているのか
は大きく異なります。
そのため片頭痛治療を理解するには、
「この薬は、発作のどの段階を抑えているのか」
という視点で整理することが大切です。
片頭痛を“発作回路”として見る
シリーズ「片頭痛を知る」で、
これまで見てきたように、
片頭痛発作は一連の神経回路の中で
進行していきます。
流れを簡単に整理すると、
発作生成ネットワーク(視床下部など)
↓
皮質興奮性の上昇
↓
(ときに)CSD
↓
三叉神経血管系の活性化
↓
CGRP放出・神経原性炎症
↓
TCC(三叉神経頚髄複合体)の感作
↓
痛み・感覚過敏・めまい
というストーリーで進行します4)。
片頭痛治療とは、
この流れのどこかで
発作の進行を食い止める試み
と考えることができます5)。

急性期治療と予防治療は
“止める場所”が違う

現在の片頭痛治療は、大きく
- 急性期治療
- 予防治療
の二つに分かれます1,3)。
急性期治療
発作が始まったあとに使用し、
- 三叉神経血管系の活性化
- 痛みの増幅
- 神経原性炎症
などを抑える治療です。
主に、三叉神経血管系から
TCCにかけての段階に作用します1,3,4)。
予防治療
一方、予防治療は、
- 脳の興奮性
- 脳幹ネットワークの不安定性
そのものを調整し、
発作が起こりにくい状態をつくる治療です。
つまり、
発作の“起きやすさ”そのものを下げる
アプローチと言えます1,2,5)。
これまでの連載で扱ってきた
「閾値」の考え方ともつながっています。
なぜ“薬の選択”が重要なのか
同じ片頭痛でも、
- 拍動性の痛みが強いタイプ
- 締め付け感が長く続くタイプ
- めまいが主体になるタイプ
など、症状の出方には個人差があります。
これは、
- 三叉神経系
- 脳幹ネットワーク
- 感覚処理系
のどの部分が強く関与しているか?
によって変わるためです4)。
そのため治療も、
「この発作では、どの回路が前景に出ているのか」
という視点で選ぶほうが、理にかなっています3,5)。

片頭痛治療は
「痛み止め選び」ではない
片頭痛は、単純に
「痛みを抑えるだけの病気」
ではありません。
脳のネットワークが不安定になり、
その結果として起こる発作を
どの段階で止めるか
と考えることが大切な病気なのです。
この視点を持つと、
- なぜトリプタンが効くのか
- なぜNSAIDsが有効な場合があるのか
- なぜ予防薬が必要になるのか
といったことも、
単なる「薬の種類」ではなく、
神経回路との関係として理解しやすくなります1,4,5)。

次話では
次からは、こうした考え方をもとに、
急性期治療薬が、
実際にはどこに作用しているのか
を順に見ていきます。
片頭痛治療は、
単なる「頭痛止めの選び方」ではありません。
神経回路のどこを止めるか
という戦略なのです。
参考文献
1.“日本神経学会, 日本頭痛学会, 日本神経治療学会 監修. 「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 編. 頭痛の診療ガイドライン 2021. 東京: 医学書院; 2021”
2.“日本頭痛学会. CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版)”
3.“柴田護, 菊井祥二, 來村昌紀, 志水太郎. かかりつけ医のための片頭痛診断および治療のフローチャート.診療と新薬. 2025;62:1-17”
4.“Khan J, Asoom LIA, Sunni AA, Rafique N, Latif R, Saif SA, et al. Genetics, pathophysiology, diagnosis, treatment, management, and prevention of migraine. Biomed Pharmacother. 2021;139:111557”
5.“間中信也, 山本雄一郎. 片頭痛治療の新時代―治療ゴールとアルゴリズムの提案―. 新薬と臨牀. 2024;73:3-17”
シリーズ『片頭痛を知る』 (全19話)
第12話 片頭痛治療は「どこを止めるか」で考える 完
