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シリーズ「片頭痛を知る」

片頭痛予防薬は「発作の閾値」を上げる治療

シリーズ『片頭痛を知る』 第16話

片頭痛予防薬は
「発作の閾値」を上げる治療

発作を起こしにくい脳にするメカニズム

【監修】氷室クリニック院長・氷室公秀(医学博士・神経内科専門医)

片頭痛の発作は、
ある日突然始まるように見えるかもしれません。 

しかし実際には、
これまでお話してきたように
脳の中でいくつもの変化が積み重なり、
その結果として発作が起きています145

例えば、

  • 気圧の変化
  • 寒暖差
  • 睡眠不足
  • ストレス
  • 女性ホルモンの変動

といった刺激は、
まず脳の奥にある「視床下部」に
影響すると考えられています4

視床下部は、
体内時計や睡眠、
自律神経、ホルモンバランスなどを
調整する重要な中枢です。 

片頭痛では、
この視床下部が“発作の出発点”とも
考えられています4510

視床下部の働きが不安定になると、
次に大脳皮質の神経細胞が
興奮しやすい状態になります。 

そして、あるタイミングで
「CSD(皮質拡延性抑制)」と呼ばれる
特殊な電気現象が起こることがあります4

CSDが生じると、
脳表の血管周囲に炎症反応が起こり、
それに伴って三叉神経が刺激されます47

三叉神経は、
顔や頭の痛みを伝える重要な神経です。 

この神経が興奮すると、
片頭痛発作が本格的に始まります。

さらにその興奮は、

  • 頚髄三叉神経複合体(TCC)
  • 前庭神経核

などへ広がり、

  • ズキズキと脈打つ痛み
  • 締め付けられるような痛み
  • めまい

といったさまざまな症状として現れます47

つまり片頭痛は、
「視床下部 → 大脳皮質 → CSD → 三叉神経 → 神経核」
という流れの中で起こる、
“神経の連鎖反応”として考えることができます457

ここで重要になるのが、
「閾値(しきいち)」という考え方です。

片頭痛のある人の脳は、
さまざまな刺激に対して
発作が起こりやすい状態にあります45。 

言い換えると、
「発作が起こるためのハードルが低い状態」
とも言えます。

例えば同じ気圧の変化があっても、

  • 片頭痛のない人 → 特に変化は起こらない
  • 片頭痛のある人 → 発作につながる

という違いが生まれます。

予防薬の役割は、
この「発作の閾値を上げること」
=「発作の起こりやすさを下げること」です14510

つまり、
「多少の刺激があっても、
発作まで進まない脳の状態を作る」
ことが、予防治療の目的なのです。

片頭痛の予防薬には、
さまざまな種類があります。

一般的には、

  • β遮断薬
  • カルシウム拮抗薬
  • 抗てんかん薬
  • 抗うつ薬

といった分類で説明されることが多いでしょう149101112

しかし、片頭痛の観点からは、
「発作のどの段階を抑えているのか」
という見方をすると、
理解しやすくなることがあります4,5,9,10)

片頭痛予防薬はどこに効く

①視床下部の興奮を安定させる薬

発作の出発点と考えられている
視床下部の活動を安定させることで、
発作そのものが始まりにくい状態を目指します。

代表的な薬としては、

  • インデラル®
  • トリプタノール®

などがあります149101112

②CSDを抑える薬

CSDは、片頭痛発作の
重要な引き金になる現象です。

この神経の過剰な電気活動を抑える薬として、

  • ミグシス®
  • デパケン®
  • トピナ®

などがあります。

これらは神経細胞の興奮性を下げることで、
発作が起こりにくい状態を作ります149101112

③三叉神経の興奮を抑える薬

三叉神経は、片頭痛の痛みの中心となる神経です。

この神経の過剰な興奮を抑えることで、
発作の強さや起こりやすさを
軽減できる場合があります14510

近年では、
この三叉神経から放出される
「CGRP」という物質を標的にした
治療薬も登場しています241012

④神経核の興奮を抑える薬

三叉神経の興奮は、
さらに脳幹にある神経核へ伝わっていきます。

例えば、

  • 頚髄三叉神経複合体(TCC)
  • 前庭神経核

などです。

ここが強く興奮すると、

  • 締め付けられるような頭痛
  • めまいを伴う前庭性片頭痛

などの症状につながることがあります47

予防薬は、こうした“症状が広がる経路”の
興奮を抑える役割も担っています457910

片頭痛治療というと、
「発作を止める薬」
に注目が集まりがちです。

もちろん急性期治療はとても重要ですが、
それだけでは発作を繰り返してしまうことがあります。

そのため片頭痛では、
「発作そのものを起こりにくくする治療」
が大切になります1,4,5,10)

予防薬には、

  • 発作回数を減らす
  • 発作の強さを軽くする
  • 日常生活への影響を減らす

という役割があります14510

言い換えれば、予防薬とは、
「脳の発作のハードルを少し高くしておく薬」
とも言えるでしょう。

その結果、
以前なら発作につながっていた刺激でも、
発作が起こらずに済む状態を
めざすことができます4,5,10,12)

次回は、近年登場した
「CGRP関連薬」について整理しながら、
従来の予防薬との違いを考えていきます。

参考文献

  1. 日本神経学会, 日本頭痛学会, 日本神経治療学会 監修. 「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 編. 頭痛の診療ガイドライン 2021. 東京: 医学書院; 2021.
  2. 日本頭痛学会. CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版).
  3. 柴田護, 菊井祥二, 來村昌紀, 志水太郎. かかりつけ医のための片頭痛診断および治療のフローチャート. 診療と新薬. 2025;62:1-17.
  4. Khan J, Asoom LIA, Sunni AA, Rafique N, Latif R, Saif SA, et al. Genetics, pathophysiology, diagnosis, treatment, management, and prevention of migraine. Biomed Pharmacother. 2021;139:111557.
  5. 間中信也, 山本雄一郎. 片頭痛治療の新時代―治療ゴールとアルゴリズムの提案―. 新薬と臨牀. 2024;73:3-17.
  6. Tzankova V, Becker WJ, Chan TLH. Diagnosis and acute management of migraine. CMAJ. 2023;195(4):E153-E158.
  7. Smyth D, Britton Z, Murdin L. Vestibular migraine: an update. J Neurol. 2024.
  8. Romano DG, Bisegna MT, Palmerini F, et al. Migraine Headache. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024.
  9. Varkey E, et al. Migraine Prophylaxis. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023.
  10. Burch RC, Kaniecki RG, Loder EW. Pharmacologic prevention of migraine. BMJ. 2023;380:e072137.
  11. Modi S, Lowder DM. Medications for migraine prophylaxis. Am Fam Physician. 2006;73(1):72-78.
  12. Sacco S, Bendtsen L, Ashina M, et al. Current prophylactic medications for migraine and their potential future use. Curr Neuropharmacol. 2023;21(4):657-676.


シリーズ『片頭痛を知る』 (全19話)
第16話 片頭痛予防薬は「発作の閾値」を上げる治療  完

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