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シリーズ「片頭痛を知る」

令和8年1月の寒波で感じたこと

シリーズ「片頭痛を知る」コラム

令和8年1月の寒波で感じたこと

〜気候と片頭痛のリアルな関係〜

【監修】氷室クリニック院長・氷室公秀(医学博士・神経内科専門医)

令和8年1月、
日本列島を何度も強い寒波が襲いました。

朝の診療前、
まだ冷え切った道を歩きながら、
「今日は頭痛の患者さんが増えるかもしれない」
と思った日を覚えています。

実際、その頃の外来では、
ある“傾向”を感じていました。

「ズキズキというより、ぎゅっと締め付けられる感じが続くんです」

「数日間、痛みが治まらない」

「良くなったり悪くなったりを繰り返します」

低気圧の接近に伴う頭痛は
拍動性が目立つことが多いとされます。

しかし今回の寒波では、
少し様子が違いました。

いわゆる緊張型頭痛と
単純に言い切るには経過が長く、
かといって典型的な拍動性とも少し違う。

どこか「片頭痛らしさ」を残したまま、
締め付け感が長引く…
そんな頭痛が目立っていたのです。

さらに印象的だったのは、
10代から20代の若い患者さまが
比較的多かったことでした。

「これは偶然なのか?」

「寒波という環境条件が、特定の病態を前景に押し出したのか?」

日々診療をしていると、
論文だけでは説明しきれない
「空気の変化」のようなものを
感じる瞬間があります。

今回の寒波も、
そうした経験の一つでした。

気象と片頭痛の関係
低気圧と寒波の違い

気象と片頭痛の関係については、
以前からさまざまな研究があります。

特に、気圧低下や急激な変動が
発作頻度を上げる可能性については、
一定の支持があります。

ただし、発作の“性状”まで
一貫して説明できているわけではありません。

低気圧が近づくと、

  • 気圧低下
  • 相対的な脳血管拡張
  • 副鼻腔や内耳の圧変化

などを介して三叉神経血管系が刺激され、
拍動性頭痛が起こりやすくなる…
という説明は比較的理解しやすいものです。

一方で、「寒波」は少し性質が異なります。

寒さが続く時期には、

  • 日内の大きな温度差
  • 持続する交感神経緊張
  • 首肩の筋緊張
  • 睡眠の質の低下
  • 生活リズムの乱れ

といった変化が、
じわじわと身体に負荷をかけ続けます。

これは急激な“発作の引き金”というより、
脳幹や視床下部、頚部筋群を含む
ネットワーク全体を
少しずつ過敏な状態にしていく
イメージに近いのかもしれません。

その結果、
「一度強くズキズキする」というよりも、
痛みを中継する脳幹の中枢(TCC)が
過敏なまま持続し、
締め付け型の頭痛として長引く。

今回の外来で見えていた景色は、
そんな病態と矛盾しないように感じられました。

10〜20代は、
もともと脳の興奮性が高く、
生活リズムも揺れやすい世代です。

  • 睡眠不足
  • 長時間の画面曝露
  • 首肩の緊張
  • 不規則な生活

こうした要素が積み重なると、
中枢神経の過敏性が高まりやすくなります。

実際、この時期の患者さまでは、

  • 拍動ははっきりしない
  • しかし締め付け感が長く続く
  • 日によって強さが変わる

というパターンが少なくありませんでした。

「血管の問題だけ」というより、
脳全体の痛みネットワークが
敏感な状態に傾いていた。

そう考えると、
今回の寒波との関係も
比較的自然に理解できます。

もちろん、現時点でのエビデンスの観点では、

  • 気圧変動と片頭痛頻度の関連は一部支持
  • 季節や気象との関連は一様ではない
  • 個体差が大きい

とされています。

したがって、寒波によって
「締め付け型片頭痛が増える」
「若年層への影響が大きい」
と断定できるだけの統計学的な証拠が
あるわけではありません。

ただ、診療の現場では、
「この時期になると悪化する」
「このパターンで長引く」
という小さな変化の積み重ねが、
治療のヒントになることがあります。

実際に、
気象変化 × 年齢 × ネットワーク病態

という視点で見ると、
十分に理論と矛盾しない臨床エピソードなのです。

例えば今回の経験は、
特定の気象条件下で、
TCC中枢感作優位の発作が
前景に出ることがある
という一つの臨床像を示していました。

このことから、寒波の季節では

  • 早めに睡眠を整える
  • 首肩の緊張をため込まない
  • 痛みが長引く前に対処する
  • いつもの薬が効きにくい時期を想定しておく

といった予防的な工夫が役立つ可能性を感じました。

さらに今後、

  • 寒波期と低気圧期で頭痛のタイプに違いがあるのか
  • 持続時間に差があるのか
  • NSAIDsやトリプタンへの反応が変わるのか

などを丁寧に観察し、
これまで整理してきた「3つの表現型」
の枠組みに当てはめてみたいと考えています。

外来診療は、
単に症状を“処理”する場所ではありません。

患者さま一人ひとりの経過の中から、
「なぜ今回はこうなったのか」
を一緒に考えていく場でもあります。

そうした積み重ねが、
より個別化された治療戦略につながるはずです。

自然環境の変化は、
ときに病態の輪郭を
はっきり浮かび上がらせます。

今回の寒波もまた、
片頭痛という病気を
少し別の角度から
見せてくれた出来事
だったのかもしれません。

シリーズ『片頭痛を知る』 (全19話)
コラム 令和8年1月の寒波で感じたこと  完

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