シリーズ『片頭痛を知る』 第15話
片頭痛の薬は
どう選ぶのか
頭痛のタイプと急性期治療のアルゴリズム
【監修】氷室クリニック院長・氷室公秀(医学博士・神経内科専門医)

片頭痛の治療について、
患者さまからよく聞かれる質問があります。
「一番よく効く薬はどれですか?」
しかし実際の診療では、
この質問に単純な答えはありません。
なぜなら片頭痛治療では、
「薬の強さ」よりも、
どんなタイプの発作なのかを見極めること
が重要だからです。
同じ片頭痛でも、
- ズキズキと脈打つ痛み
- 帽子で締め付けられるような重い痛み
- 頭痛より“めまい”が前に出る発作
など、症状の現れ方には
いくつかのパターンがあります。
そしてこれらは
単なる“感じ方の違い”ではなく、
三叉神経系のどの回路が中心になっているか
の違いとして考えると理解しやすくなります。
そのため、
発作のタイプによって、
選ばれる薬も少しずつ変わってきます1,3,4,6)。

拍動型
速く止めるか、長く抑えるか
典型的な片頭痛では、
- ズキズキと脈打つ
- 動くと悪化する
- 光や音がつらい
といった症状がみられます。
このタイプでは、
三叉神経の興奮
+
硬膜血管の反応
が発作の中心になっています4,6)。
そのため、急性期治療の基本になるのが
トリプタン製剤です1,3,6)。
トリプタンは、
- 三叉神経終末からのCGRP放出を抑え
- 血管反応を落ち着かせる
ことで、発作そのもののドライブを抑えていきます4,6)。
一方で、発作の早い段階では
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)も有効です。
たとえば、
- ロキソプロフェン
- イブプロフェン
などは、
- 比較的立ち上がりが速い
- 神経周囲の炎症を抑える
という特徴があり、
軽度~中等度の発作初期では
十分な効果を示すことがあります1,4,6,8)。
実際の診療では、
「まずNSAIDsで対応し、
必要時にトリプタンを追加する」
という形で使い分けることも少なくありません1,3,6)。
また、低気圧の時などに、
半日〜1日ほど持続する拍動型発作
を繰り返す患者さまもいます1,3,4,6,8)。
このようなケースでは、
短時間作用型のNSAIDsを何度も追加するより、
ナプロキセンのような
持続時間の長い薬を使った方が、
発作全体を通して安定して抑えやすくなる場合があります1,3,6,8)。

締め付け型
TCCが主役になる頭痛
片頭痛の中には、
- 帽子で締め付けられるような痛み
- 後頭部~首の重さ
- 長時間続く鈍い頭痛
を主体とするタイプがあります3,4)。
一見すると緊張型頭痛に似ていますが、
- 動くと悪化する
- 気圧変化や睡眠不足で誘発される
など、“片頭痛らしさ”も持っています1,3,4)。
このタイプでは、
三叉神経頚髄複合体(TCC)
と呼ばれる脳幹領域が、
痛みの中心になっていると考えられています。
TCCには、
- 三叉神経からの入力
- 首や後頚部筋群からの入力
- 神経周囲炎症
などが集まり、
痛みが長時間持続しやすくなります。
そのため、このタイプでは
NSAIDsが治療の中心
になることが少なくありません1,3,4,6,8)。
特にナプロキセンは、
- 半減期が長い
- 炎症抑制が持続しやすい
という特徴があり、
“だらだら続く頭痛”
に適していることがあります4,6,8)。
さらに、
寒波や気圧低下で悪化する長引く発作では、
インドメタシンが有効な場合もあります。
インドメタシンは
中枢神経系への移行性が比較的高く、
神経炎症を強く抑える作用があります4,6,8)。
(※著者の臨床経験に基づく整理を含みます)
ただし、
- 胃腸障害
- 消化管出血リスク
などの副作用が比較的出やすいため、
使用頻度や使用期間を限定して使う薬
として位置づけられます1,6,8)。

めまい型
前庭性片頭痛
片頭痛の中には、
- 回転性めまい
- 浮遊感
- 体を動かすと悪化する不快感
など、“めまい”が前景に出るタイプがあります。
これを
前庭性片頭痛
と呼びます4,7)。
このタイプでは、
三叉神経
↓
前庭神経核
という回路を通して、
三叉神経の興奮が前庭系へ
波及していると考えられています4,7)。
興味深いことに、このタイプでは
トリプタンの効果が必ずしも高くない
ことが知られています4,7)。
一方、臨床では、
NSAIDsが比較的よく効く
ケースを経験することがあります。
これは、
- 前庭神経核周囲
- TCC周囲
で起きている神経炎症を抑える作用が
関係している可能性があります4,7,8)。
実際には、
- 急な発作にはロキソプロフェンなどで立ち上がりを抑え
- 長引く場合はナプロキセンで持続をカバーする
といった使い分けが現実的です1,3,4,6,7,8)。
(※著者の臨床経験に基づく整理を含みます)
薬の選択より重要なこと
ここまで見てきたように
急性期治療薬の選択は、
- 頭痛のタイプ
- 発作の持続時間
- 患者ごとの発作パターン
によって変わります1,3,4,5,6)。
しかし、もう一つ非常に重要なことがあります。
それは、
「どう薬を使うか」
です。
NSAIDsでは特に、
- 使用日数は月10日以内を目安にする
- 1回の発作をできるだけ少ない服用回数で抑える
といった原則が重要になります1,4,5,6)。
薬の使用回数が増えすぎると、
薬物乱用頭痛(MOH)という、
別の慢性頭痛を引き起こす可能性があるためです1,4,5,6)。

片頭痛治療を「回路」で考える
片頭痛治療は、
「どの薬が一番強いか」
という単純な話ではありません1,4,5)。
本当に重要なのは、
その発作で、
どの神経回路が主役になっているのか
を考えることです。
- 拍動型では三叉神経と血管
- 締め付け型ではTCC
- めまい型では前庭神経核
それぞれ中心となる回路が少しずつ異なります4,5,7)。
その回路に合わせて薬を選ぶことで、
「なぜこの薬を使うのか」
が整理しやすくなり、
治療全体も理解しやすくなっていきます1,3,4,5)。
参考文献
- 日本神経学会, 日本頭痛学会, 日本神経治療学会 監修. 「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会 編. 頭痛の診療ガイドライン 2021. 東京: 医学書院; 2021.
- 日本頭痛学会. CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版).
- 柴田護, 菊井祥二, 來村昌紀, 志水太郎. かかりつけ医のための片頭痛診断および治療のフローチャート. 診療と新薬. 2025;62:1-17.
- Khan J, Asoom LIA, Sunni AA, Rafique N, Latif R, Saif SA, et al. Genetics, pathophysiology, diagnosis, treatment, management, and prevention of migraine. Biomed Pharmacother. 2021;139:111557.
- 間中信也, 山本雄一郎. 片頭痛治療の新時代―治療ゴールとアルゴリズムの提案―. 新薬と臨牀. 2024;73:3-17.
- Tzankova V, Becker WJ, Chan TLH. Diagnosis and acute management of migraine. CMAJ. 2023;195(4):E153-E158.
- Smyth D, Britton Z, Murdin L. Vestibular migraine: an update. J Neurol. 2024.
- Romano DG, Bisegna MT, Palmerini F, et al. Migraine Headache. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024.
シリーズ『片頭痛を知る』 (全19話)
第15話 薬はどう選ぶのか 完
