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シリーズ「片頭痛を知る」

飲み薬でCGRPの信号を抑える

シリーズ『片頭痛を知る』追補編

飲み薬でCGRPの信号を抑える

ナルティークとアクイプタは、どう違うのか

【監修】氷室クリニック院長・氷室公秀(医学博士・神経内科専門医)

第19話では、片頭痛を理解し、
日常生活を取り戻すための考え方をまとめました。

今回の追補編では、
片頭痛治療の新しい選択肢である
「ゲパント」という薬について、
外来でよく出会うひとつの疑問から考えてみます。

「同じ片頭痛の薬なのに、
なぜこちらの方がよく効くのでしょうか。」

患者さまから、こうした疑問を伺うことがあります。

実際の診療でも、予防治療として
ナルティークで大きく改善する方もいれば、
アクイプタの方が合う方もいます。

この2つは、どちらも
CGRPという物質の信号を受け取れないようにする飲み薬です。[1,2]

しかし、飲み方は異なり、
効果の現れ方も患者さまによって違いがあります。

同じ仕組みで働く薬なのに、何が違うのでしょうか。

薬の働きと実際の治療の両面から考えてみましょう。

※冒頭で紹介した薬の効き方の違いは、著者の診療経験によるものです。二つの薬の優劣を示す比較試験の結果ではありません。

CGRPは、
片頭痛の痛みに関わる信号を伝える物質です。
その信号を受け取る「受け取り口」が、
CGRP受容体と呼ばれるものです。

ナルティーク(リメゲパント)と
アクイプタ(アトゲパント)は、
どちらもこの受容体の働きをブロックし、
CGRPの信号が伝わるのを抑えます。
このような薬を「ゲパント」と呼びます。[1,2]

ただし、日本国内で認められている
使い方には違いがあります。

ナルティークは、
片頭痛の発作が起きたときの治療と、
発作を減らすための予防の両方に使われます。
一方、アクイプタは、
片頭痛の予防に使う薬です。[1,2]

通常の使い方ナルティークアクイプタ
片頭痛の予防75 mgを一日おき60 mgを毎日
発作時の治療発作時に75 mg急性期治療の適応なし

※国内の電子添文に基づく標準的な用法です。ナルティークは、予防と発作時の使用を合わせても1日75mgまでです。アクイプタは、一緒に使用する薬や腎臓の働きによって、服用量を減らす場合があります。実際の服用では、医師から指示された量と間隔を守ってください。[1,2]

ナルティークは、
片頭痛の予防のために1日おきに服用します。[1]
では、薬の成分が一度CGRP受容体に結合すると、
そのまま2日間くっついているのでしょうか。

ヒトのCGRP受容体を使った基礎実験では、
受容体に結合したリメゲパントの
半分が離れるまでの時間は、
約27分と報告されています。[3]

この時間を「解離半減期」といいます。
2日間という服用間隔と比べると、
ずいぶん短く感じられるかもしれません。

ただし、これは、
薬の予防効果が27分でなくなる
という意味ではありません。

薬の成分が体内の作用する場所に残っていれば、
受容体に結合する成分が入れ替わりながら、
CGRPの信号を抑える働きが続く可能性があります。

もっとも、この仕組みだけで、
1日おきの服用による予防効果を
すべて説明できるわけではありません。

薬の働きを理解するには、
次の3つを分けて考えることが大切です。

  • 血液中の薬が減っていくまでの時間
  • 受容体に結合した薬が離れるまでの時間
  • 実際に片頭痛を予防する効果が続く時間

これらは、必ずしも同じではないのです。

薬の説明でよく目にする「半減期」とは、
血液中の薬の濃度が
半分になるまでの時間を表す目安です。[1,2]

半減期が過ぎたからといって、
薬が体内からすべて消えるわけではありません。

薬を飲んだ後の血液中の濃度を考えてみましょう。

服用後に濃度が高くなる部分を「山」、
その後、濃度が下がりながら
少量の薬が残る部分を「裾」と考えると、
イメージしやすくなります。

※血中濃度と予防効果を分けて考えるための模式図です。曲線は二剤の実測値や効果の違いを表しているものではありません。

もし、少ない量でも
CGRP受容体の働きを抑えられるなら、
血液中の薬の濃度が下がった後も、
作用が続く可能性があります。

ただし、血液中の薬の濃度と、
実際に薬が働く場所での濃度は、
必ずしも同じではありません。

そのため、血液中に
少量の薬が残っているというだけで、
予防効果がいつまで続くかを
判断することはできません。

ナルティークは1日おき、
アクイプタは毎日という飲み方が
認められているのは、
それぞれの飲み方で臨床試験が行われ、
実際の患者さまで予防効果と安全性が
確認されているからです。[1,2]

つまり、薬の飲み方には
臨床試験による根拠があります。

一方で、その効果が続く詳しい仕組みについては、
まだ研究が必要な部分も残されています。

ナルティークとアクイプタでは、
片頭痛を予防する効果に違いがあるのでしょうか。
それぞれ別の臨床試験に参加した患者背景を、
統計的な方法で調整して比較した研究があります。

その研究では、1か月あたりの
片頭痛の日数を減らす効果は、
アトゲパント(アクイプタ)の方が大きいと
推定されています。
日本人の臨床試験データを用いた比較でも、
同じ傾向が報告されています。[4,5]

ただし、注意したい点があります。
これらは、2つの薬を同じ臨床試験で
直接比較した結果ではありません。

患者背景を統計的に調整しても、
把握できていない違いが残っている可能性があります。
そのため、これらの研究だけで、
どちらの薬が優れていると結論づけることはできません。[4,5]

多くの人を対象とした研究の平均的な結果は、
薬を選ぶうえで大切な手掛かりになります。
しかし、平均的によく効くとされる薬が、
すべての患者さまに最もよく効くとは限りません。

第18話:あなたの片頭痛にはどの予防薬が「筋が良い」のか
では、「その人にとって筋が良い治療」
という考え方を紹介しました。
この視点は、ゲパントを選ぶ際にも役立ちます。

頭痛の症状や
日常生活への影響などを踏まえて薬を選び、
実際にどのくらい改善したかを確認しながら、
治療を調整していくことが大切なのです。

なお、こうした比較研究によって、
頭痛の症状や特徴から、
どちらのゲパントが効きやすいかを
予測できるようになったわけではありません。[4,5]

AMY1受容体という研究の視点
少し詳しく知りたい方のために、もう一つの研究の視点を紹介します。
CGRPの信号を受け取るのは、これまで説明してきたCGRP受容体だけではありません。
「AMY1受容体」と呼ばれる別の受容体も、CGRPに反応することが知られています。
AMY1受容体は、カルシトニン受容体とRAMP1というタンパク質が組み合わさってできており、アミリンという別の物質にも反応します。[6]
基礎研究では、リメゲパントとアトゲパントのどちらにも、このAMY1受容体を介した信号をブロックする作用があることが示されています。[3,6,7]
では、AMY1受容体への作用の違いが、患者さまによって薬の効き方が異なる理由の一つなのでしょうか。
興味深い疑問ですが、現時点では、まだはっきりした答えは出ていません。
これらは基礎研究で得られた結果であり、実験の条件によっても違いがあります。
受容体に対する作用の強さだけで、実際の治療効果や、どの患者さんに合うかを予測することはできません。[3,6,7]
なぜ、ある患者さんにはこちらの薬がよく効くのか。
まだ分かっていないこともあります。
分かっていることと、これから研究で確かめるべきことを区別しながら考えることが大切です。
外来で見られる患者さまごとの小さな違いが、薬の働きをさらに理解するための手掛かりになるかもしれません。

薬を選ぶときには、
効果だけでなく、
無理なく続けられるかどうかも大切です。
たとえよく効く薬でも、
副作用がつらければ、
治療を続けることが難しくなります。

ナルティークとアクイプタの
国内の予防試験では、
どちらも副作用として便秘が報告されています。[1,2]

頭痛がどのくらい改善したかだけでなく、
便通の変化にも注意しておきましょう。

また、ほかに使用している薬や、
腎臓・肝臓の状態によって、
服用時の注意点や薬の使い方が変わることがあります。[1,2]
市販薬やサプリメントも含め、
現在使用しているものは医師や薬剤師に伝えてください。

薬の飲みやすさや、治療にかかる費用も、
長く続けるうえでは大切な要素です。

「効果があるか」と「無理なく続けられるか」。

この両方を考えながら、自分に合った治療を選んでいきます。

片頭痛の予防治療では、
1か月に何日頭痛があったかが、
効果を判断する重要な目安になります。

しかし、治療の成果は、
頭痛の日数だけでは測れません。

例えば、

□仕事や家事を休む日が減った

□予定をキャンセルせずに過ごせるようになった

□発作時の薬を使う日が減った


といった変化です。

こうした日常生活の改善も、
治療によって得られる大切な成果です。[1,2,4,5]

頭痛ダイアリーには、

□頭痛が起きた日数

□痛みの強さ

□続いた時間

□発作時の薬を使った日

などに加えて、生活への影響も記録しておきましょう。

思うように改善しない場合でも、
その記録が、次にどのような治療を考えるかを
判断する助けになります。

ナルティークとアクイプタの違いを知ることは、
自分に合う治療を探すための手掛かりになります。

大切なのは、
一人ひとりの薬への反応を丁寧に確かめながら、
効果があり、続けやすい治療を選んでいくことです。

目指すのは、
片頭痛への不安や日常生活への支障を減らし、
自分のために使える時間を取り戻すことなのです。

連載内の関連ページ
→ 第17話:CGRP関連薬とトピナ®
→ 第18話:あなたの片頭痛にはどの予防薬が「筋が良い」のか
→ 第19話:片頭痛と付き合うということ

参考文献
※適応・用法は、2026年10月11日に参照した国内電子添文に基づきます。文献番号は、この追補編の中で完結しています。

1. ファイザー株式会社. ナルティークOD錠75mg:電子添文[Internet]. 2025年12月改訂(第2版). PMDA掲載; 2026年10月11日参照.
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdDetail/iyaku/1190035F1027_1?user=1

2. アッヴィ合同会社. アクイプタ錠10mg・30mg・60mg:電子添文[Internet]. 2026年2月作成(第1版). PMDA掲載; 2026年10月11日参照.
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdDetail/iyaku/1190036F3024_1?user=1

3. 石川智史, 諸田沙織, 時ベイニ, 李銀華, 飯島正博. 片頭痛の急性期治療・予防を目的とした経口CGRP受容体拮抗薬リメゲパント(ナルティーク®OD錠)の薬理学的特徴及び臨床試験成績. 日本薬理学雑誌. 2026;161(4):280–290. doi:10.1254/fpj.26050.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/161/4/161_26050/_html/-char/ja

4. Tassorelli C, Onishchenko K, Halker Singh RB, Duan M, Dupont-Benjamin L, Hemstock M, et al. Comparative efficacy, quality of life, safety, and tolerability of atogepant and rimegepant in migraine prevention: a matching-adjusted indirect comparison analysis. Cephalalgia. 2024;44(2):3331024241235156. doi:10.1177/03331024241235156.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38410850

5. Takizawa T, Ahmadyar G, Tyas E, Duan M, Ubamadu I, Yamazaki T, et al. Comparative effectiveness of atogepant and rimegepant for migraine prevention in Japanese patients: an anchored matching-adjusted indirect comparison. Expert Rev Neurother. 2026;26(1):91–100. doi:10.1080/14737175.2025.2599853.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41410310

6. Pan KS, Siow A, Hay DL, Walker CS. Antagonism of CGRP signaling by rimegepant at two receptors. Front Pharmacol. 2020;11:1240. doi:10.3389/fphar.2020.01240.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32973499

7. Moore E, Bell IM, Fraley ME, Burgey CS, White RB, Li CC, et al. Pharmacologic characterization of atogepant: a potent and selective calcitonin gene-related peptide receptor antagonist. Cephalalgia. 2024;44(1):3331024231226186. doi:10.1177/03331024231226186.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38215228

シリーズ『片頭痛を知る』
追補編 飲み薬でCGRPの信号を抑える 完

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