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シリーズ「群発頭痛を考える」

痛みの扉はなぜ開くのか

シリーズ「群発頭痛を考える」第3話

痛みの扉はなぜ開くのか

CGRP、PACAP、誘発試験
から描く三層モデル

【監修】氷室クリニック院長・氷室公秀(医学博士・神経内科専門医)

「群発期の間は、ビールをコップ1杯飲んだだけで、1時間もしないうちに発作が来る。ところが群発期が終わると、同じように飲んでも何も起こらない」。

多くの患者さまが経験する、この奇妙な現象。

同じ刺激なのに、ある時期には痛みを呼び、別の時期には何も起こさない。

前回は、発作が決まった時刻と季節を選ぶことを見てきました。
今回は、その間で痛みの「扉」がどのように開くのかを考えます。

アルコールが群発期にだけ発作を起こすことは、国際頭痛分類にも書かれています。
群発期の間は、アルコール、ヒスタミン、ニトログリセリンで発作が誘発されることがあるのです[1]。

研究者たちは、この性質を逆手にとりました。
薬を使って意図的に発作を起こし、その前後で体に何が起きているかを詳しく調べる「誘発試験」です。
使われてきたのは、狭心症の薬であるニトログリセリンと、神経から放出される二つの物質、CGRPとPACAPです。

結果には、群発期と寛解期の明確な違いが表れました。
CGRPを点滴すると、群発期の患者さまでは9人中8人に発作が起こりました。
偽薬では9人中1人でした。

ところが寛解期の患者さまでは、9人のうち発作が起きた人はいませんでした[2]。
PACAPでも同じで、群発期には14人中6人に発作が起こり、寛解期には15人中0人でした[3]。
同じ物質を投与しても、群発期か寛解期かによって結果は大きく異なります。

群発期には痛みにつながる「扉」が開き、寛解期には閉じているのかもしれません。
こう考えると、患者さまのビールの体験もうまく説明できます。

ニトログリセリンによる誘発試験からは、発作の起こり方そのものについても、興味深いことが分かりました。
ニトログリセリンを使うと、すぐには発作は起こりません。
30〜50分というほぼ一定の待ち時間(潜時)があって、それから発作が始まります。

そして1回発作が起こると、その後の数時間は、もう一度ニトログリセリンを使っても発作が起こりません[4]。

このように、次の刺激に反応しにくくなる時間を「不応期」と呼びます。

別の研究でも、潜時はおよそ30分でした。
この研究では、挿間性の患者さまのほうが、慢性型の患者さまより潜時が短いという結果も出ています[5]。

CGRPを測ってみると、上がるのは発作がピークに達したときでした。
待ち時間の間や、発作の始まりの時点では上がっていませんでした[6]。

この結果からは、待ち時間の間に発作を引き起こす条件が整い、ある閾値を超えると発作が始まる、という仕組みが考えられます。
そして一度発作が起こると、しばらくは次の発作を起こせない。
これは、水がたまって一杯になると一気に流れ出し、しばらくは空になる「ししおどし」のような仕組みです。
物理学では、こうした仕組みを弛緩振動子と呼びます。

1回だけの刺激は、1回の発作を起こすだけです。
では、刺激がずっと続いたらどうなるでしょうか。

狭心症のために硝酸薬を毎日使い始めた患者さま8人のうち6人で、0.5〜12週後に新しい群発期が始まったという報告があります[4]。
対照のない症例の報告ですが、持続的な刺激が群発期の始まりに関わる可能性を示唆しています。
ただし、この報告だけで因果関係は断定できません。

「誘発した発作で、予定されていた自然の発作が後ろにずれる」
という話もあります。
本当なら、発作の仕組みにリセットできる「位相」があることになり、とても面白い現象です。
ただ、これを述べているのは、文献の記載がない患者向けのウェブページだけです[7]。
研究論文で確かめられるまでは、仮説として取っておくことにします。

CGRPは、片頭痛の治療薬の標的として知られるようになった物質です。
CGRPの働きを抑える抗体薬ガルカネズマブは、挿間性の群発頭痛では、群発期の発作を偽薬より減らしました(1週あたり−8.7回 対 −5.2回)[8]。

ところが慢性型では、偽薬との差が出ませんでした[9]。
同じ群発頭痛でも、挿間性と慢性型では、発作を支えている仕組みが違うのかもしれません。
この点は、次回の慢性化の話につながります。

もう一つの物質、PACAPには、体内時計との関わりを示す特徴があります。
PACAPは、網膜から体内時計(視交叉上核)へ光の情報を運ぶ神経の伝達物質として働き、体内時計の時刻調整に関わります[10,11]。

一方でPACAPは、顔の自律神経の中継点である翼口蓋神経節や、三叉神経、視床下部にも存在します[12]。

時計を合わせる信号と、涙や鼻水を出す自律神経の信号に、同じ分子が使われているのです。

前回の「時計の合図が痛みの回路に流れ込む」という考えを思い出すと、示唆的な事実です。

では、血液中のPACAPは群発期と寛解期で変わるのでしょうか。
寛解期には健常者より低いとする小規模な研究がありました[13,14]。

しかし、より大きなデンマークの研究では、PACAPは慢性型でも群発期でも寛解期でも健常者より34〜50%高く、時期による差はありませんでした[15]。
血液の濃度だけで、扉の開け閉めを説明することはできないようです。

また、PACAPとよく似た物質VIPでも、同じくらい発作が誘発されました[3]。
発作に至る経路は、思ったより単純ではありません。

ここまでの観察をつなぎ合わせると、群発頭痛の仕組みを三つの層で描くことができます。
これは観察を説明するために組み立てた仮説で、モデル全体としてはまだ確かめられていません。

第1層 季節の門年単位の時計が、群発期に「門」を開く(基礎の興奮性が上がる)
+ 持続する刺激(硝酸薬など)も門を開けうる
↓
第2層 1日の時計夜や寝入りばなに、興奮性が高まる時間帯をつくる
↓
第3層 発作発生器視床下部と三叉神経、自律神経を結ぶ回路。
線を越えると発火し、その後は数時間休む
↓
出力:片側の激しい痛み + 涙・鼻水・目の充血

ここで、発作が起きる条件を、あえて式で書いてみます。

B + A·C(t) + T(t) − R(Δt) > θ

式の読み方

記号意味観察による裏づけ
B季節の門で決まる基礎の興奮性誘発試験は群発期にだけ陽性になる[2,3]
A·C(t)1日の時計による興奮性の上下(Aは振れ幅)発作は夜に集中し、群発期は季節を選ぶ[16]
T(t)アルコールやニトログリセリンなどの刺激群発期の誘因として確かめられている[1,17]
R(Δt)前の発作からの時間に応じた「休み」発作の後の数時間は誘発できない[4]
θ発作が起きる線(閾値)直接測る方法はまだない

この式で考えると、「時計の誤作動」の正体が見えてきます。

時計は毎晩、寝入りばなに向けて正常な「準備の合図」を出しています。
寛解期には門が閉じていてBが低いので、合図が来ても線を越えません。

ところが群発期には門が開いてBが上がっているため、本来は無害なこの合図が線を越え、発作発生器に火をつけてしまう。

そして発作の後は「休み」が入るので、次の発作は翌晩の同じ頃まで来ない。

毎晩同じ時刻に発作が来るのは、こうした仕組みが関わっている可能性があります。

ただし、繰り返しになりますが、式の各項はまだ実際に測れる体の量に対応づけられていません。
このモデルは確立した答えではなく、今後の研究で何を確かめるべきかを考えるための仮説です。

  • ニトログリセリンの待ち時間は、普段発作が来る時刻に近いほど短くなるでしょうか。
    もしそうなら、時計による興奮性の上下(A·C(t))が実在する証拠になります。これまでの研究では、時刻による違いは調べられていません[5]。
  • 群発期の終わりに向かって、刺激への感受性と発作の回数は、並んで下がっていくでしょうか。
    群発期の終わりが近づくと誘因への過敏さが弱まるという報告はあります[4]。
    それが門の閉じていく過程を映しているのかどうかは、まだ分かりません。

第3話のまとめ

確かに言えることまだ分かっていないこと
CGRP、PACAP、ニトログリセリンは、群発期にだけ発作を起こす[2,3]門」の正体は、脳のどこにある何なのか
誘発発作には一定の待ち時間と、その後の不応期がある[4]待ち時間の間に、何が「たまって」いくのか
PACAPは時計への入力と自律神経の出力の両方に使われている[10,12]PACAPが時計と発作を実際につないでいるのか
抗CGRP抗体は挿間性で発作を減らし、慢性型では差が出なかった[8,9]なぜ挿間性と慢性型で効き方が違うのか

シリーズ「群発頭痛を考える」
第3話 痛みの扉はなぜ開くのか 完

参考文献

1.Headache Classification Committee of the International Headache Society (IHS). The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition. Cephalalgia. 2018;38(1):1-211. doi:10.1177/0333102417738202. PMID: 29368949.

2.Vollesen ALH, Snoer A, Beske RP, Guo S, Hoffmann J, Jensen RH, et al. Effect of infusion of calcitonin gene-related peptide on cluster headache attacks: a randomized clinical trial. JAMA Neurol. 2018;75(10):1187-97. doi:10.1001/jamaneurol.2018.1675. PMID: 29987329.

3.Vollesen ALH, Snoer A, Chaudhry B, Petersen AS, Hagedorn A, Hoffmann J, et al. The effect of pituitary adenylate cyclase-activating peptide-38 and vasoactive intestinal peptide in cluster headache. Cephalalgia. 2020;40(13):1474-88. doi:10.1177/0333102420940689. PMID: 32962406.

4.Ekbom K, Sjöstrand C, Svensson DA, Waldenlind E. Periods of cluster headache induced by nitrate therapy and spontaneous remission of angina pectoris during active clusters. Cephalalgia. 2004;24(2):92-8. doi:10.1111/j.1468-2982.2004.00634.x. PMID: 14728704.

5.Wei DY, Goadsby PJ. Comprehensive clinical phenotyping of nitroglycerin infusion induced cluster headache attacks. Cephalalgia. 2021;41(8):913-33. doi:10.1177/0333102421989617. PMID: 33615843.

6.Fanciullacci M, Alessandri M, Sicuteri R, Marabini S. Responsiveness of the trigeminovascular system to nitroglycerine in cluster headache patients. Brain. 1997;120(Pt 2):283-8. doi:10.1093/brain/120.2.283. PMID: 9117375.

7.Schmerzklinik Kiel. Attackenprovokation [Internet]. Kiel: Schmerzklinik Kiel; [cited 2026 Oct 12]. Available from: https://schmerzklinik.de/service-fuer-patienten/clusterkopfschmerz-wissen/attackenprovokation/

8.Goadsby PJ, Dodick DW, Leone M, Bardos JN, Oakes TM, Millen BA, et al. Trial of Galcanezumab in Prevention of Episodic Cluster Headache. N Engl J Med. 2019;381(2):132-41. doi:10.1056/NEJMoa1813440. PMID: 31291515.

9.Dodick DW, Goadsby PJ, Lucas C, Jensen R, Bardos JN, Martinez JM, et al. Phase 3 randomized, placebo-controlled study of galcanezumab in patients with chronic cluster headache: Results from 3-month double-blind treatment. Cephalalgia. 2020;40(9):935-48. doi:10.1177/0333102420905321. PMID: 32050782.

10.Hannibal J, Ding JM, Chen D, Fahrenkrug J, Larsen PJ, Gillette MU, et al. Pituitary adenylate cyclase-activating peptide (PACAP) in the retinohypothalamic tract: a potential daytime regulator of the biological clock. J Neurosci. 1997;17(7):2637-44. doi:10.1523/JNEUROSCI.17-07-02637.1997. PMID: 9065523.

11.Chen D, Buchanan GF, Ding JM, Hannibal J, Gillette MU. Pituitary adenylyl cyclase-activating peptide: a pivotal modulator of glutamatergic regulation of the suprachiasmatic circadian clock. Proc Natl Acad Sci U S A. 1999;96(23):13468-73. doi:10.1073/pnas.96.23.13468. PMID: 10557344.

12.Coppola G, Arruda MA, Ashina M, Barloese M, Belin AC, Bottiroli S, et al. Hallmarks of primary headache: part 3 – cluster headache. J Headache Pain. 2025;26(1):196. doi:10.1186/s10194-025-02145-6. PMID: 41039211.

13.Tuka B, Szabó N, Tóth E, Kincses ZT, Párdutz Á, Szok D, et al. Release of PACAP-38 in episodic cluster headache patients – an exploratory study. J Headache Pain. 2016;17(1):69. doi:10.1186/s10194-016-0660-7. PMID: 27475101.

14.Kim M, Yu JK, Kim YH. Update on Cluster Headaches: From Genetic to Novel Therapeutic Approaches. Headache Pain Res. 2024;25(1):42-53. doi:10.62087/hpr.2024.0009.

15.Søborg MK, Lund N, Snoer A, Barloese M, Jensen RH, Petersen AS. PACAP-38 in Cluster Headache: A Prospective, Case-Control Study of a Potential Treatment Target. Eur J Neurol. 2025;32(9):e70341. doi:10.1111/ene.70341. PMID: 41002104.

16.Benkli B, Kim SY, Koike N, Han C, Tran CK, Silva E, et al. Circadian Features of Cluster Headache and Migraine: A Systematic Review, Meta-analysis, and Genetic Analysis. Neurology. 2023;100(22):e2224-e2236. doi:10.1212/WNL.0000000000207240. PMID: 36990725.

17.Wei DY, Khalil M, Goadsby PJ. Managing cluster headache. Pract Neurol. 2019;19(6):521-8. doi:10.1136/practneurol-2018-002124. PMID: 31278205.

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