シリーズ「群発頭痛を考える」第2話
時計が刻む痛み
決まった時刻、決まった季節に
発作はなぜ繰り返されるのか
【監修】氷室クリニック院長・氷室公秀(医学博士・神経内科専門医)
「目覚まし時計より正確なんです」
群発頭痛の患者さまから、こんな言葉を聞くことがあります。
毎晩ほぼ同じ時刻に、激しい痛みで目を覚ます。
去年も一昨年も、桜が咲く頃に群発期が始まった。
手帳を見返してみると、今年もほとんど同じ週だった。
まるで体の中に、痛みの時刻を知らせる時計があるかのようです。
第1話では、群発頭痛がどのような病気なのかを紹介しました。
今回は、この不思議な「時間の規則性」に目を向けます。
なぜ群発頭痛の発作は、決まった時刻や季節に繰り返されるのでしょうか。
その謎を解く手がかりは、私たちの体に備わっている「体内時計」にあるのかもしれません。

発作が起こる時刻には
一定のリズムがある
患者さまが感じている「時計のような正確さ」は、決して気のせいではありません。
世界各国の研究結果をまとめたメタ解析では、群発頭痛の患者さんの70.5%に、発作が起こる時刻の規則性が認められました。
これは、約7割の患者さんに、1日を周期とする「概日リズム」が見られるということです。
特に発作が集中するのは、夜の21時から明け方の3時にかけてでした[1]。
さらに詳しく調べると、発作が起こりやすい時間帯には、次の3つのピークがあるという報告もあります[2]。
- 深夜1〜2時頃
- 昼13〜15時頃
- 夜21時頃

昼間のピークについては、昼食後の眠気との関係が考えられます。
ただし、イタリアの研究者は、この時間帯が多くの人にとって仕事を中断する時間でもあると指摘しています。
つまり、発作の時刻を決めているのが体内時計なのか、それとも日々の生活習慣なのかは、まだはっきりしていないのです。
夜中の発作は
睡眠と関係しているのか
群発頭痛では、眠りについてから1時間半〜2時間ほどで発作が起こりやすいとされています[3,4]。
この特徴から、研究者たちは、夢を見ることが多い「レム睡眠」など、特定の睡眠段階が発作の引き金になっているのではないかと考えてきました。
実際、過去の研究には、レム睡眠と発作の関係を示唆する報告もあります[2]。
しかし、その後、睡眠中の脳波や呼吸などを一晩中記録して調べた研究では、発作と特定の睡眠段階との明確な関係は確認されませんでした[5]。

ここで、一つの疑問が生まれます。
発作は「眠っていること」によって起こるのでしょうか。
それとも「夜の決まった時刻」だから起こるのでしょうか。
似ているようで、この二つは異なる問題です。
なお、一晩眠らずに過ごしたところ、発作が一時的に治まったという報告もあります。
ただし、これは1981年の報告1件に限られ、その後の研究で確かめられたものではありません[2]。
睡眠と発作の関係には、まだ解明されていない部分が多く残されています。
群発頭痛は
季節にも左右される
群発頭痛には、1日の中での規則性だけでなく、1年を通じた季節的な規則性もあります。
前述のメタ解析では、群発期は春と秋に多いことが示されています[1]。
春と秋は、日の長さが大きく変化する季節です。
このことから、日照時間の変化と群発頭痛の関係が注目されています。

また、群発期が始まる前に、何らかの「前触れ」を感じる患者さんがいることも分かってきました。
台湾で行われた研究では、88.7%の患者さんが群発期の始まりに先立って何らかの症状を経験しており、前触れから群発期が始まるまでの時間は、中央値で24時間でした[6]。
患者さまが感じる「そろそろ発作が始まりそうだ」という感覚は、体の中で何らかの変化が起きていることを知らせるサインなのかもしれません。
では、私たちの体は、どのようにして時刻や季節を知っているのでしょうか。
その仕組みを理解するために、少しだけ体内時計の話をしてみましょう。
私たちの体には
時間を知らせる時計がある
私たちの体には、約24時間のリズムを刻む「体内時計」が備わっています。
その中心となるのが、脳の視床下部にある「視交叉上核(しこうさじょうかく)」という小さな神経細胞の集まりです。
視交叉上核は、全身のリズムを調整する「親時計」のような役割を果たしています。
そして、目の網膜から届く光の情報を利用して、毎日、時計の時刻を合わせ直しています[7]。
では、そもそも生き物は、なぜ体内時計を持っているのでしょうか。
その理由の一つは、環境の変化に反応するだけでなく、変化を予測して準備できることにあると考えられています。
例えば、暗くなってから眠る準備を始めたり、空腹になってから消化の準備をしたりするのでは、体の対応が遅れてしまいます。
昼と夜が規則正しく繰り返されるのであれば、次の変化を予測し、あらかじめ準備しておく方が有利です。
体内時計は、生き物が環境に適応するために進化させてきた、大切な仕組みなのです[8,9]。

体内時計は
生き残るために進化してきた
体内時計の重要性は、さまざまな生き物を使った研究からも明らかになっています。
例えば、光合成を行う微生物の一種「シアノバクテリア」を使った実験では、体内時計の周期が異なる株を一緒に育てると、昼夜の周期に合った株が生き残りやすいことが分かりました。
昼夜の周期を変えると、有利になる株も入れ替わりました[10]。
一方、数理モデルによる研究では、株をそれぞれ単独で育てた場合には、同じような差が生じない可能性も示されています[11]。
つまり、体内時計の価値は、ほかの生き物との競争の中で、よりはっきり現れるということです。
野生のシマリスを使った実験でも、興味深い結果が報告されています。
体内時計の中枢を壊したシマリスを自然環境に戻すと、最初の80日間にイタチに捕食される個体が多くなりました。
巣穴の中でも、本来は休んでいる夜間に落ち着きなく動く様子が観察されています[12]。
別の種類(ジリス)を使った実験でも、似た結果が報告されています[13]。
また、ショウジョウバエでは、体内時計に関わる遺伝子が正常に働かない雄は、残せる子の数が30〜50%少なくなりました[14]。
さらに、700世代以上にわたって明るい環境で飼育されたショウジョウバエの集団でも、体内時計は失われませんでした[15]。
これらの研究は、体内時計が単に時間を知るための仕組みではなく、生存や繁殖にも深く関わっていることを示しています。
ただし、自然界の環境は常に一定ではありません。
そのため、進化の過程で重要だったのは、体内時計が単独で正確に動き続けることよりも、周囲の環境に合わせてリズムを調整できる仕組みだと考えられています[15]。
毎日光で合わせ直すのであれば、時計そのものが正確である必要はないからです[16]。
季節を予測する
もう一つの時計
体内時計は、1日のリズムだけでなく、季節の変化にも関わっています。
季節を知るための重要な手がかりが、日の長さです。
気温は日によって大きく変動しますが、日の長さは季節の移り変わりに応じて規則正しく変化します。
生き物にとって、冬が来る前に寒さへの備えを始めたり、春の訪れに合わせて繁殖の準備をしたりすることは、生き残るために重要です。
そのため、日の長さを手がかりに季節を予測する仕組みが進化してきたと考えられています[17]。
いわば、1日の体内時計は数時間先の変化を予測し、季節の体内時計は数か月先の変化を予測しているのです。
群発頭痛の発作が特定の時刻に集中し、群発期が春や秋に多いという特徴も、こうした体内時計の仕組みと関係している可能性があります。

夜のホルモン
「メラトニン」と群発頭痛
体内時計と群発頭痛をつなぐ手がかりとして、以前から注目されているのが「メラトニン」というホルモンです。
メラトニンは主に夜間に分泌され、体に「今は夜である」という情報を伝える働きをしています。
研究結果をまとめたメタ解析では、群発期にある患者さまは、夜間の血液中のメラトニン濃度が低下していることが示されました[18]。
さらに興味深いのは、メラトニンが分解されてできる物質を尿で測定した研究です。
この物質は、発作が続いている群発期だけでなく、発作が起こらない寛解期にも低い値を示していました[18]。
このことは、メラトニンの変化が、群発期という一時的な「状態」だけでなく、群発頭痛になりやすい「体質」にも関係している可能性を示しています。
また、メラトニンの分泌時刻が通常より早まっているという報告もあります。
ただし、これは小規模な研究によるもので、十分に確かめられた結果ではありません[19]。
メラトニンの異常が群発頭痛の原因なのか、それとも病気に伴って起こる変化なのかは、まだ分かっていないのです。

体内時計は
本当に壊れているのか
ここからは、研究によって確かめられた事実ではなく、群発頭痛の仕組みを考えるための一つの仮説です。
群発頭痛では、発作が起こる時刻や群発期が始まる季節に、驚くほどの規則性が見られます。
このことは、体内時計そのものが壊れているのではなく、むしろ規則正しく働いていることを示しているようにも思えます。
もしそうだとすれば、問題は時計の故障ではないのかもしれません。
体内時計が毎晩、体に送っている正常な「準備の合図」が、何らかの理由で痛みを生み出す神経の回路に伝わってしまう。
つまり、時計そのものではなく、時計の合図を受け取る仕組みのどこかで、誤作動が起きているという考え方です。
もちろん、これはまだ検証されていない仮説です。
では、体内時計からの合図は、どこで、どのようにして激しい痛みに変わるのでしょうか。
そして、なぜ群発期の間だけ、その現象が繰り返されるのでしょうか。
この疑問が、次回のテーマにつながっていきます。
あなたの頭痛日記が
体内時計の謎を解く手がかりに
体内時計と群発頭痛の関係を考えるうえで、患者さん自身が記録する「頭痛日記」も大切な手がかりになります。
例えば、普段より2〜3時間遅く眠った日に、発作が起こる時刻も同じように遅くなるでしょうか。
もし発作の時刻もずれるのであれば、睡眠との関係が考えられます。
反対に、眠る時刻が変わっても発作がいつもと同じ時刻に起こるのであれば、体内時計との関係が疑われます。
ただし、一度の記録だけで判断することはできません。
記録を積み重ねることで、発作の規則性が見えてくる可能性があります。
また、群発期が始まる時期についても、日の長さそのものが関係するのか、それとも日の長さが変化する速さが関係するのか、今後の研究で明らかになるかもしれません。
日々の記録では、次のような情報を残しておくと役立ちます。
□発作が起こった時刻
□眠りについた時刻と、目が覚めた時刻
□昼寝をしたかどうか
□飲酒の有無
さらに、群発期が始まる前に、いつもと違う体調の変化や前触れを感じた場合には、その日付や内容も記録しておきましょう[6]。
こうした記録は、診察時に症状を正確に伝えるためにも役立ちます。
そして、一人ひとりの小さな記録の積み重ねが、群発頭痛の謎を解き明かす研究につながっていくかもしれません。

第2話のまとめ
群発頭痛には、発作が起こる時刻や群発期が始まる季節に、特徴的な規則性があります。
その背景には体内時計が関係していると考えられていますが、どのような仕組みで痛みにつながるのかは、まだ明らかになっていません。
| 確かに言えること | まだ分かっていないこと |
|---|---|
| 多くの患者さまで、発作は夜(21〜3時)に集中する[1] | 昼の発作の山は、時計によるものか、生活習慣によるものか |
| 群発期は春と秋に多い[1] | 季節の何が群発期の始まりを決めるのか |
| 群発期の前触れを感じる人は多い[6] | 前触れのときに、体の中で何が起きているのか |
| 発作は特定の睡眠段階とは結びついていない[5] | 発作は「眠り」と「時刻」のどちらに結びついているのか |
| 群発期には夜のメラトニンが低い[18] | それが原因なのか、結果なのか |
群発頭痛の「時計のような正確さ」は、病気の仕組みを理解するための重要な手がかりです。
次回は、体内時計からの合図が、どのようにして激しい痛みへと変わるのか。
その仕組みに迫ります。
シリーズ「群発頭痛を考える」
第2話 時計が刻む痛み 完
参考文献
1. Benkli B, Kim SY, Koike N, Han C, Tran CK, Silva E, et al. Circadian Features of Cluster Headache and Migraine: A Systematic Review, Meta-analysis, and Genetic Analysis. Neurology. 2023;100(22):e2224-e2236. doi:10.1212/WNL.0000000000207240. PMID: 36990725.
2. Pringsheim T. Cluster headache: evidence for a disorder of circadian rhythm and hypothalamic function. Can J Neurol Sci. 2002;29(1):33-40. doi:10.1017/s0317167100001694. PMID: 11858532.
3. British Association for the Study of Headache. 2.4.1 Cluster headache. In: BASH guideline V2.0 [Internet]. BASH; 2026 [cited 2026 Oct 12]. Available from: https://bash.org.uk/2-4-1-cluster-headache/
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7. Hannibal J, Ding JM, Chen D, Fahrenkrug J, Larsen PJ, Gillette MU, et al. Pituitary adenylate cyclase-activating peptide (PACAP) in the retinohypothalamic tract: a potential daytime regulator of the biological clock. J Neurosci. 1997;17(7):2637-44. doi:10.1523/JNEUROSCI.17-07-02637.1997. PMID: 9065523.
8. Westwood ML, O’Donnell AJ, de Bekker C, Lively CM, Zuk M, Reece SE. The evolutionary ecology of circadian rhythms in infection. Nat Ecol Evol. 2019;3(4):552-60. doi:10.1038/s41559-019-0831-4. PMID: 30886375.
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18. Liampas I, Siokas V, Brotis A, Aloizou AM, Mentis AA, Vikelis M, et al. Meta-analysis of melatonin levels in cluster headache-Review of clinical implications. Acta Neurol Scand. 2020;142(4):356-67. doi:10.1111/ane.13317. PMID: 32677039.
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