現在における認知症や神経難病の患者に対する考え方は、1959年に提唱された「ノーマライゼーション」という概念に端を発します。これは、「社会で日々を過ごす一人の人間として、障害者の生活状態が障害のない人の生活状態と同じであることは、障害者の権利である。障害者は可能な限り同じ条件のもとに置かれるべきであり、そのような状況を実現するための生活条件の改善が必要である」とする考え方です。日本においても、1993年の障害者基本法に始まり、介護保険法(1997年)、認知症に対するオレンジプラン(2013年)、難病法に基づく難病対策制度(2015年)など、地域で当事者とその家族を包括的に支援することをめざした法律や制度が整えられました。一方で、政府が求める診療体制は、急性期医療を必要とする一定時期だけ病院で診療を行い、安定すると近隣の診療所に紹介するという病診連携の診療体制です。しかし現実には近隣の診療所では専門診療が受けられず、症状に合わせた投薬調整ができないためコントロール不良状態になり、入院や施設入所を余儀なくされるケースが多く認められます。
そこで、認知症や神経難病の患者とその家族の方々のために、発症期から進行期に至るまで、住み慣れた地域で安心して暮らせる在宅療養を専門医の立場から支援することなど、「神経内科専門医としての使命を果たす」ことを目的として、2013年に氷室クリニックを開業しました。2022年には、当院に訪問リハビリテーションを開設し、訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所、在宅医療を主に行う診療所などと地域医療連携を構築し、地域の明日のためによりよい在宅療養の実現を医療の面からサポートし続けています。
院長 氷室公秀
氷室クリニックの3つの指針