【監修】氷室クリニック院長・氷室公秀(医学博士・神経内科専門医)
片頭痛治療は、いま大きな転換点にあります。
経口CGRP受容体拮抗薬(ゲパント製剤)の
「ナルティーク(一般名:リメゲパント)」が、
日本で承認されたからです。
この薬は、
「発作時治療」と「予防」の両方を1剤で担える
という特徴を持っています。
「頭痛が来そうだ」
と感じたタイミングで内服すると、
発作を抑えながら、
その後の頭痛頻度も減らす、
二刀流の活躍をしてくれる薬なのです。
また、注射薬が主流だったCGRP治療に
飲み薬という選びやすい選択肢が
誕生したことにもなります。
今回のコラムでは、
片頭痛でお悩みの方に、強い味方となる
この新しい薬についてお伝えします。
CONTENTS
●なぜリメゲパント(ナルティーク)は片頭痛に効くの?
●リメゲパント(ナルティーク)の副作用は?
●妊娠・授乳中は要注意
●他の「ゲパント」との違い
●アイモビークなどの注射薬との決定的な違い
●なぜ「効き目は長く、副作用は軽い」の?
●リメゲパント(ナルティーク)にかかる費用
●リメゲパント(ナルティーク)はこんな人に向いています
なぜリメゲパント(ナルティーク)は片頭痛に効くの?

片頭痛の本質は、単なる血管痛ではありません。
さまざまな要因で三叉神経が刺激されると、
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)
という物質が放出されます。
この物質が引き金となって、
- 血管が拡張する
- 神経に炎症が起こる
- 痛みの信号が増幅される
といった反応が次々に起こり、
痛みが強まっていきます。
この神経炎症の連鎖が、
片頭痛の核となる仕組みです。
リメゲパント(ナルティーク)は…
●CGRPが結合する「受容体」をピンポイントで遮断
●血管拡張・神経感作・炎症を同時に抑制
という、極めて合理的な作用をします。
しかも経口薬のため
●注射不要
●効果発現が早い
●トリプタンのような血管収縮作用がない
という利点があります。

リメゲパント(ナルティーク)の副作用は?
CGRP受容体は
三叉神経(頭痛に関わる)と消化管(胃腸)で主に働きますが、
リメゲパント(ナルティーク)は消化管への影響が少なくなっています。
副作用の発現率は約 6.9%。
最も多いのは
■悪心:約1.3%
■下痢・便秘:少数
で、全体として軽度・一過性です。
肝機能障害は稀ですが、長期使用ではモニタリングが推奨されます。
妊娠・授乳中は要注意
動物実験では大きな問題は確認されていませんが、
ヒトでの安全性データはまだ十分ではありません。
妊娠中・授乳中は原則使用を避け、
必ず主治医と代替治療を相談する必要があります。

他の「ゲパント」との違い
海外では「リメゲパント(ナルティーク)」と「ウブロゲパント(Ubrelvy)」が実用化されています。
いずれも
- 急性期効果が高い
- 悪心(2–4%)が主な副作用
- 心血管リスクが低い
という共通点があります。
その中でリメゲパントは、
予防効果も併せ持つ唯一のゲパントです。
実際、月間片頭痛日数50%以上減少率では
- リメゲパント(ナルティーク):61%
- ガルカネズマブ(エムガルティ<注射抗体>):62%
と、注射薬と同等の予防効果を示しています。
Schwedt TJ ほか.ガルカネズマブとリメゲパントの有効性および安全性の比較:反復性片頭痛を対象としたランダム化比較試験.Advances in Therapy. 2023;40:4043–4057.doi:10.1007/s40120-023-00562-w
アイモビークなどの注射薬との決定的な違い
注射薬との違いを見てみましょう。
▶ 抗CGRP抗体薬(注射薬)
✅ 月1回注射
✅ 予防専用
✅ 効果は強いが、便秘などの副作用が問題になることも
▶ リメゲパント(ナルティーク)
✅ 発作時に内服
✅ 48時間効果持続
✅ 月15回未満使用で「予防効果も得られる」
✅ 注射不要・柔軟な使い方が可能
特に注目すべきは便秘の違いです。
●リメゲパント(ナルティーク)
→ 1–7%(多くは軽度)
●エレヌマブ(アイモビーク)(注射薬)
→ 4.6–12.6%(重症便秘の報告あり)
Holzer S, Holzer-Petsche U. CGRP関連抗体療法での便秘有害事象の臨床的報告. Frontiers in Physiology. 2022.(抗CGRP抗体薬治療中の便秘発現について)
Pfizer Inc. リメゲパント硫酸塩水和物OD錠(C4951021/BHV3000-309試験)臨床試験安全性データ(製造販売承認申請資料).Lamas Perez R, 等. Galcanezumab投与中に重度便秘を発症した症例報告. Reactions Weekly. 2025.
さらにトリプタンと異なり
セロトニン刺激、血管収縮がないため
✅ 高血圧・心疾患がある人にも使いやすい
✅ 脳梗塞リスクを上げない
という大きな利点があります。

なぜ「効き目は長く、副作用は軽い」のか
― こだわり派の方ための理論解説 ―
CGRP受容体は、主に三叉神経と消化管に存在しています。
三叉神経では、血管を広げる作用や神経を過敏にする作用、痛みを脳へ伝える働きに関わっており、片頭痛の発症メカニズムの中心的な役割を担っていることが分かっています。
一方、消化管では、腸の動きを活発にする(蠕動運動の促進)、血管拡張、炎症の調整などに関与し、消化管の正常な働きを支える役割を果たしています。
リメゲパント(ナルティーク)と、抗CGRP受容体抗体製剤であるエレヌマブ(アイモビーグ)は、いずれもCGRP受容体に高い選択性を持つ薬剤であり、「どこを標的にしているか」という点では大きな違いはありません。
それにもかかわらず、現時点では、
リメゲパント(ナルティーク)は脳での作用が比較的長く続き、エレヌマブ(アイモビーグ)に比べて消化管の副作用が少ないと考えられています。
この理由については、以下のように解釈されています。
①作用時間の違い
■リメゲパント(ナルティーク)は短い
→ 血中濃度ピーク(Tmax):約1.75時間
→ 半減期:10–12時間
■エレヌマブ(アイモビーグ)は長い
→ 体内効果持続:約1か月
② 組織ごとの受容体ターンオーバーの違い
■中枢神経(痛み回路)
→ ターンオーバーが遅い
■消化管平滑筋
→ ターンオーバーが速い(神経系の5倍以上と推定)
これらの違いで、消化管でCGRP受容体の動的更新が起こりやすいと考えられています。
③ 結果として起きていること
■リメゲパント(ナルティーク)
→ 三叉神経(痛み経路)では受容体抑制が長く続く
→ 消化管平滑筋のでは受容体の高速ターンオーバーで薬解離が速い
これにより、ピーク後速やかに機能回復するため副作用の発現が低くなります。
■エレヌマブ(アイモビーグ)
→ 全身で長期間CGRPを抑え続ける
→ 消化管運動抑制が持続
よって、便秘が強く出やすくなります。
つまり、
「短く効いて、必要な場所では長く効く」
これがリメゲパント(ナルティーク)の最大の特徴と考えられています。

リメゲパント(ナルティーク)にかかる費用
新薬であるため、既存のジェネリック医薬品等と比較すると費用は高めです。
ライフスタイルや経済的なバランスを考えて選択することが大切です。

商品名「ナルティークOD錠」
【薬価】 1錠(75mg):2,923.20円 (※2026年1月時点)
【窓口負担(3割負担)の目安】
| 使用目的 | 服用頻度 | 費用目安(薬剤費のみ) |
| 発作時(頓服) | 発作時に1錠 | 1錠あたり 約 880円 |
| 予防で使用 | 隔日投与(月15錠程度) | 1ヶ月あたり 約 13,150円 |
※上記は薬剤費のみです。別途、診察料・処方箋料・調剤料などがかかります。
※予防使用の月額は、抗CGRP抗体注射薬(アイモビークやエムガルティ等)の費用(3割負担で約12,000円〜)と比較的近い価格帯です。
リメゲパント(ナルティーク)はこんな人に向いています
✅ 注射は避けたい
✅ トリプタンが合わない
✅ 心血管リスクが気になる
✅ 発作も予防も一つの戦略で管理したい
リメゲパント(ナルティーク)は
片頭痛を“力技”ではなく、“設計図”で抑えたい人
に向いた薬です。
薬を選ぶことは、
自分の片頭痛の「性格」を理解すること。
その選択肢に、確かな説明を示してくれる一剤と言えるでしょう。
